刑事事件

承継的共同正犯の解説

2020.10.16更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかどとしや)です。

 

当事務所のルーキー弁護士は,出身大学の司法試験受験生の指導をしているのですが,明日のゼミで,旧司法試験刑法の論文過去問を使用するとのことで,レジュメを作成しておりました。そのうちの1問が平成3年度第1問であり,承継的共同正犯の肯否が論点となります。

何だか懐かしくなり,本ブログを書こうと思いました。今回は,承継的共同正犯を解説します。

 

①承継的共同正犯の意義

承継的共同正犯とは,先に犯罪の実行に着手した先行者の実行行為が終了する前に,後行者が,先行者と意思連絡して共謀した上で残りの実行行為に関与する形態の共犯をいいます。承継的共同正犯は,途中参加型の共同正犯であり,途中参加した後行者にどの範囲で共同正犯が成立するかが問題となります。
例えば,先行者が強盗をする意思で暴行・脅迫を加え被害者の反抗を抑圧していたところ,その後,後行者が,自分も利益を得たいと思い,先行者と意思の連絡をした上で被害者の意思に反して財物の占有を奪った場合において,少なくとも後行者は共謀後の犯罪事実については,共同正犯の成立要件(①犯罪の共謀,②正犯性,③共謀に基づく実行行為)を満たすのであれば,占有者の意思に反して財物を奪った行為について,窃盗罪の共同正犯の罪責を負うことはとくに問題ないと思います。ここで問題となるのは,後行者が,承継的共同正犯として強盗罪の共同正犯の罪責を負うかという点にあります。

 

②承継的共同正犯の理論的根拠

Ⅰ 全面肯定説

継続犯,結合犯,結果的加重犯など先行者の犯罪が一罪である犯罪については,単純一罪の犯罪は不可分であることから,後行者が先行者と意思を連絡して先行者に加担した場合には,後行者に行為全体について責任を問い得るとする見解があります。
この見解は,戦後間もないの下級審の裁判例やかつての学説では支持されていたようですが,何を一罪として扱うかは,後行者の可罰性とは無関係な立法政策により決まることなので,後行者が先行者による一罪の一部に加担したことだけを理由に後行者に共同正犯の罪責を負わせられないとの批判が向けられており現在は支持を失っているようです。

Ⅱ 全面否定説

共同正犯の一部行為全部責任の根拠を,複数の者が共同して犯罪を実行することで物理的,心理的に影響を及ぼし合うことによって犯罪の結果発生の蓋然性を高めたところに求める見解(因果的共犯論)から,後行者は,自己の関与前の先行者の行為によりもたらされた事象について物理的,心理的に影響を及ぼし得ないため,後行者は,関与以前の事象について罪責を負わないとする見解があります。原則論としては,全面否定説が説得力があるのではないでしょうか。

 

Ⅲ 限定肯定説

承継的共同正犯を一定の範囲で認める限定肯定説があります。これは原則否定説に立ちながらも,例外的に肯定する説であり,説明方法としてはいくつかあります。

見解の1つとして,共同正犯の処罰根拠につき相互利用補充関係説に立った上で,後行者が先行者の行為と結果を自己の犯罪の手段として積極的に利用した場合は,自己の関与前の行為と結果についても承継的共同正犯として共同正犯の罪責を負うとの見解があります(積極利用意思説と名付けます。)。後に述べる最決平 24.11.6刑集66巻11号1281頁(以下「平成24年最高裁決定」といいます。)が登場する以前は下級審の裁判例(大阪高判昭 62.7.10 等)でよくみられていた見解です。

別の見解の1つとして,共同正犯の処罰根拠についてき因果的共犯論(構成要件該当事実の共同惹起)に立った上で,後行者が,自己の関与以前の先行者の行為に因果性をもつことはあり得ないが,関与の時点で,先行者の行為の効果が継続して存在し,後行者がその効果を利用して先行者と共同して違法結果を実現した場合に,当該結果惹起について因果性を及ぼしたものとして承継的共同正犯として共同正犯の罪責を負うとの見解があります(結果共同惹起説と名付けます。)。平成24年最高裁決定の千葉勝美裁判官の補足意見はこの見解と整合します。この見解は,積極利用意思説のように後行者の積極的な利用意思は承継の要件とはなっていないのがポイントです。

 

③限定肯定説を採用したと解される最高裁

平成24年最高裁決定の事案は,先行者Aらが被害者に暴行を加えて傷害を負わせたところ,その後,後行者である被告人は,先行者の行為とそれによる結果を認識し,さらに,先行者と共謀の上,被害者に暴行を加えて先行者が生じさせた傷害の結果をより重くしたという事実関係のもとにおいて,後行者が,自ら被害者に負わせた傷害結果のほかに,傷害罪の承継的共同正犯として先行者が生じさせた傷害の結果についても罪責を負うのかが問題となったというものです。
平成24年最高裁決定は,被告人は,共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については,被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当と判断しました。

 

ちなみに,平成24年最高裁決定には,千葉勝美裁判官の補足意見があります。

「承継的共同正犯において後行者が共同正犯としての責任を負うかについては,強盗,恐喝,詐欺等の罪責を負わせる場合には,共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果〔注:強取,喝取,詐取という犯罪の結果〕について因果関係を持ち,犯罪が成立する場合があり得るので,承継的共同正犯の成立を認め得るであろうが,少なくとも傷害罪については,このような因果関係は認め難いので(先行者による暴行・傷害が,単に,後行者の暴行の動機や契機になることがあるに過ぎない。),承継的共同正犯の成立を認め得る場合は,容易には想定し難い。」

平成24年最高裁決定は,傷害罪の事案で承継的共同正犯を否定したものですが,この決定の法廷意見だけからだけですと,最高裁が,承継的共同正犯について全面否定説を採用しているのか,限定肯定説を採用しているのかが不明でした。もっとも,平成24年最高裁決定における千葉勝美裁判官の補足意見をみると限定肯定説を採用しているのではないかということは推察できました。

その後,最決平29.12.11刑集第71巻10号535頁(以下「平成29年最高裁決定」といいます。)は,先行者が欺罔行為をした後に後行者が財物の受領行為にだけ関わったが未遂に終わったという詐欺未遂罪の承継的共同正犯の成否が問題となった事案で「被告人は,本件詐欺につき,共犯者による本件欺罔行為がされた後,だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに,共犯者らと共謀の上,本件詐欺を完遂する上で本件欺罔行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している。そうすると,だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず,被告人は,その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき,詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当」と判示して共同正犯の成立を肯定したのです。この平成29年最高裁決定により,最高裁が,承継的共同正犯につき限定肯定説を採用していることが明らかとなりました。

投稿者: 弁護士濵門俊也

大麻取締法が「所持」のみを処罰し,「使用」を処罰していないわけ

2020.09.10更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

本日,被疑者国選担当日なのですが,早速,事件の配点がありました。罪名は「大麻取締法違反(所持)」の罪です。数日前には,著名な俳優さんが同罪で逮捕されたというニュース報道がありました。結構見たい作品に出演されておられたので,作品がお蔵入りしないことを切に希望します。大麻取締法違反といいますが,具体的な実行行為は「所持」です。「所持」罪について所有の意思,所有権の有無は問われません(覚せい剤の所持について,東京高判昭和50年4月28日高検速報2100参照)。

皆さんもご存じかもしれませんが,大麻の使用は,一般には処罰の対象とはされていません。大麻取扱者が所持の目的以外の目的に大麻を使用した場合に処罰されるだけです(大麻取締法3条2項,同法24条の3)。この場合の法定刑は,5年以下の懲役,営利の場合,7年以下の懲役又は情状により7年以下の懲役及び200万円以下の罰金です(未遂罪も処罰されます。)。

そもそも,大麻取締法は,大麻草全体を規制対象にはしていません。大麻取締法が規制対象としている大麻とは,大麻草(カンナビス・サティバ・エル…学名)及びその製品をいい,大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く),大麻草の種子及びその製品は除かれます(大麻取締法1条)。すなわち,大麻草の成熟した茎や種子を持っていたとしても「所持」には当たらないのです。

そうしますと,その理由が気になりますよね。そこで今回は,大麻取締法違反が大麻草の成熟した茎や種子を持っていることを「所持」として処罰していない理由や「使用」を処罰していない理由を解説します。

●大麻草の成熟した茎や種子を持っていても「所持」にならない理由:大麻草全体に有害な物質が含まれているわけではないから

理由ですが,「大麻草全体に有害な物質が含まれているというわけではないから」です。大麻は,その成分中のテトラヒドロカンナノビールが中枢神経に作用し,著しい向精神作用を示すのです。このテトラヒドロカンナノビールという成分が,大麻特有の妄想,幻覚,恐怖状態,錯乱状態などを引き起こし,有害性があるとされるのです。また,テトラヒドロカンナノビールは,大麻草の樹液に多く含まれ,大麻草の花や葉っぱにはこの樹液が多く含まれているのに対し,成熟した茎や種子にはテトラヒドロカンナノビール成分はほとんど含まれていないのです。
日本在来種の麻も大麻なのですが,日本では伝統的に茎の部分は麻織物や麻縄に利用され,種子の部分は七味唐辛子に使用されるなどして日常生活に深く染み込んでいます。こうしたことから「成熟した茎や種子の部分は有害性がほとんどない」として規制対象から外されたのです。

●大麻の「使用」を処罰していない理由:罪刑法定主義の要請

「有害性がほとんどない」といいましたが,これは成熟した茎や種子にまったくテトラヒドロカンナノビールが含まれていないというわけではなく,微量なテトラヒドロカンナノビールが含まれていることがあることを意味します。そのため,この茎や種子が体内に入った場合に,尿検査で微量な大麻成分(テトラヒドロカンナノビール)が検出されることが絶対にないとはいえないわけです。
そしてもっと重要なことは,尿として排出された大麻成分が,大麻の茎の部分であったのか,種子の部分であったのか,それとも樹脂(樹液が固まったもの)や花の部分や草の部分であったのか,特定できないことです。すなわち,尿検査で大麻の陽性反応が出たからといって,それが規制対象である大麻の花や葉っぱ,あるいは大麻樹脂といわれるものをその人が摂取したとは必ずしも言えなくなるわけです。
そこで,覚せい剤とは異なり,大麻について,使用罪は処罰範囲から除外されたのです。決して有害性がほとんどないから大目に見て処罰していないわけではありません。刑法の大原則である罪刑法定主義の要請から処罰範囲を限定化・明確化すべく不処罰とされているのです。

【参考文献】 シリーズ捜査実務全書8・藤永幸治編集代表『薬物犯罪』(第2版・東京法令出版)

 

投稿者: 弁護士濵門俊也

私戦予備・陰謀罪の解説

2019.07.03更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

ニュース報道によりますと,過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員になるため,シリアへの渡航準備をしたなどとして,警視庁公安部は3日,私戦予備罪の被疑事実で,当時北海道大生であった男性(31歳)とイスラム法学者の元同志社大学教授(58歳)ら5人を書類送検したそうです。公安部は起訴を求める厳重処分の意見を付けたそうです。刑法の施行以降,同被疑事実の適用は初めてです。
他に書類送検されたのは,元北大生と同様に戦闘に参加しようとした千葉県在住の20代男性や,支援したジャーナリスト(50歳),30代の男性です。
公安部などによりますと,一部は「ISに加わり,戦闘員として働こうとしていた」と被疑事実を認めているようです。元教授とジャーナリストらはIS側と連絡を取って支援を依頼したり,航空券を購入したりしていたといいます。
送検被疑事実は平成26年(2014年)8月ころ,ISの戦闘活動に参加する目的でシリアへの渡航を企てたというものです。
「私戦予備罪」「刑法施行初の適用」とは,注目せざるを得ません。今回は,私戦予備・陰謀罪について解説します。

●保護法益(本質)

私戦予備・陰謀罪は国交に関する罪の一つです。その保護法益(本質)については,①正常な外交関係を危うくし,ひいては国家の対外的安全を害する罪と解されてきました。これに対し,戦後の多数説は,②国際法上の義務に基づいて外国の法益を保護する罪と解しています。しかし,日本の刑法が外国の法益を保護するのは不自然であるとして,③日本の外交上の利益であるとする見解が近時有力となっているようです。

●条文

刑法第93条 外国に対して私的に戦闘行為をする目的で,その予備又は陰謀をした者は,3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし,自首した者は,その刑を免除する。

●構成要件

本罪は目的犯です。
「外国」とは,外国の一地方や特定の外国人の集団ではなく,国家としての外国です。よって,外国において外国人を殺傷したり,略奪行為を行う場合は含まれません。
「私的な戦闘行為」とは,わが国の意思によらない組織的な武力行為(武力による攻撃・防御)をいいます。ご承知のとおり,日本国憲法第9条1項は,国権の発動としての戦争と武力による威嚇又は武力の行使を禁じています。
「予備」とは,兵器の調達や兵士の訓練等,外国との戦闘の準備行為一般を指します。
「陰謀」とは,私戦の実行を目指して複数の者が犯罪意思をもって謀議することです。
本罪は,予備・陰謀を処罰するのみであり,私的な戦闘行為自体は処罰されていません。それは,殺人罪(刑法199条)や放火罪(刑法108条以下)等によって処罰されることとなります。
本罪では,私戦を未然に防ぐという政策的理由から,自首による刑の免除が認められています(刑法93条ただし書)。通常の自首(刑法42条1項,刑の任意的減軽)の特別規定です。

●コメント

私戦予備・陰謀罪の法定刑は「3月以上5年以下」ですから,公訴時効は5年です(刑事訴訟法250条2項5号)。公訴時効にかかる前に何とか書類送検したということがいえます。今回,公安部は起訴を求める厳重処分の意見を付けたそうですが,上記にみたとおり,「外国に対して」の構成要件を満たすかどうかが問題となりそうです。果たして初の起訴となるか注目です。

【参考文献】
前田雅英著『刑法各論講義』(東京大学出版会)
大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦著『基本刑法Ⅱ』(日本評論社)

 

投稿者: 弁護士濵門俊也

大麻取締法違反の罪――「所持」のみ処罰され,「使用」が処罰されない理由

2019.05.23更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

昨日,元アイドルグループのメンバーと女優の二人(内縁関係にあるとされています。)が大麻取締法違反の罪で逮捕されたというニュース報道がありました。大麻取締法違反といいますが,具体的な実行行為は「所持」です。ちなみに報道では当該大麻が「二人の物」か「一人の物」がで共犯者供述が食い違っているとされています。しかし,「所持」罪について所有の意思,所有権の有無は問われません(覚せい剤の所持について,東京高判昭和50年4月28日高検速報2100参照)。

皆さんもご存じかもしれませんが,大麻の使用は,一般には処罰の対象とはされていません。大麻取扱者が所持の目的以外の目的に大麻を使用した場合に処罰されるだけです(大麻取締法3条2項,同法24条の3)。この場合の法定刑は,5年以下の懲役,営利の場合,7年以下の懲役又は情状により7年以下の懲役及び200万円以下の罰金です(未遂罪も処罰されます。)。

そもそも,大麻取締法は,大麻草全体を規制対象にはしていません。大麻取締法が規制対象としている大麻とは,大麻草(カンナビス・サティバ・エル…学名)及びその製品をいい,大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く),大麻草の種子及びその製品は除かれます(大麻取締法1条)。すなわち,大麻草の成熟した茎や種子を持っていたとしても「所持」には当たらないのです。

そうしますと,その理由が気になりますよね。そこで今回は,大麻取締法違反が大麻草の成熟した茎や種子を持っていることを「所持」として処罰していない理由や「使用」を処罰していない理由を解説します。

●大麻草の成熟した茎や種子を持っていても「所持」にならない理由:大麻草全体に有害な物質が含まれているわけではないから

理由ですが,「大麻草全体に有害な物質が含まれているというわけではないから」です。大麻は,その成分中のテトラヒドロカンナノビールが中枢神経に作用し,著しい向精神作用を示すのです。このテトラヒドロカンナノビールという成分が,大麻特有の妄想,幻覚,恐怖状態,錯乱状態などを引き起こし,有害性があるとされるのです。また,テトラヒドロカンナノビールは,大麻草の樹液に多く含まれ,大麻草の花や葉っぱにはこの樹液が多く含まれているのに対し,成熟した茎や種子にはテトラヒドロカンナノビール成分はほとんど含まれていないのです。
日本在来種の麻も大麻なのですが,日本では伝統的に茎の部分は麻織物や麻縄に利用され,種子の部分は七味唐辛子に使用されるなどして日常生活に深く染み込んでいます。こうしたことから「成熟した茎や種子の部分は有害性がほとんどない」として規制対象から外されたのです。

●大麻の「使用」を処罰していない理由:罪刑法定主義の要請

「有害性がほとんどない」といいましたが,これは成熟した茎や種子にまったくテトラヒドロカンナノビールが含まれていないというわけではなく,微量なテトラヒドロカンナノビールが含まれていることがあることを意味します。そのため,この茎や種子が体内に入った場合に,尿検査で微量な大麻成分(テトラヒドロカンナノビール)が検出されることが絶対にないとはいえないわけです。
そしてもっと重要なことは,尿として排出された大麻成分が,大麻の茎の部分であったのか,種子の部分であったのか,それとも樹脂(樹液が固まったもの)や花の部分や草の部分であったのか,特定できないことです。すなわち,尿検査で大麻の陽性反応が出たからといって,それが規制対象である大麻の花や葉っぱ,あるいは大麻樹脂といわれるものをその人が摂取したとは必ずしも言えなくなるわけです。
そこで,覚せい剤とは異なり,大麻について,使用罪は処罰範囲から除外されたのです。決して有害性がほとんどないから大目に見て処罰していないわけではありません。刑法の大原則である罪刑法定主義の要請から処罰範囲を限定化・明確化すべく不処罰とされているのです。

【参考文献】 シリーズ捜査実務全書8・藤永幸治編集代表『薬物犯罪』(第2版・東京法令出版)

投稿者: 弁護士濵門俊也

名言シリーズ・「破ったら血が出るような判決を書け」(by伊達秋雄裁判官)

2019.02.06更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士・濵門俊也(はまかど・としや)です。

  

  先日,当事務所の同僚弁護士から「濵門さんの記事が岡口基一裁判官にツイートされているよ」と教えてもらいました。そこで,岡口基一裁判官のTwitterを見ますと,平野龍一博士の「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である」との言葉を引用されておりました。少しうれしくなりました。
  上記平野博士の言葉は「名言シリーズ」と銘打ち,皆さまに広く知ってもらいたいとの思いから書かせていただきました。当職が司法試験受験生の時代には,「はしがき」や「まえがき」に心を熱くする基本書が数多くありました。今回は,「名言シリーズ」の復活版となります。

  「破ったら血が出るような判決を書け」という言葉は,砂川事件第一審判決であるいわゆる「伊達判決」で著名な伊達秋雄裁判官(以下「伊達裁判官」といいます。)の言葉です。松本一郎先生の著作である『事例式演習教室 刑事訴訟法』(初版第1刷1987年12月10日,勁草書房)のまえがき「刑事裁判は絶望的か―まえがきに代えて―」でも紹介されている言葉です(この松本先生のまえがきは,かなり熱いです。一読されることをお勧めします。)。

  いわゆる砂川事件とは,1957年(昭和32年)にアメリカ軍の立川基地拡張に対する反対運動の過程で起きた事件をいいます。 57年7月8日,当時の東京都北多摩郡砂川町(現在の立川市。東京地方裁判所立川支部に向かうバスに乗るたびに思い出す砂川事件です。)において,基地を拡張するための測量に反対するデモ隊の一部が立入禁止の境界柵を破壊して基地内に侵入し,7名が「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法」違反として起訴されました。
  この事件は直接的には一刑事事件にすぎないのですが,前提問題として旧日米安全保障条約の合憲性が法廷で争われた初めてのケースです。
  1959年(昭和34年)3月 30日,東京地方裁判所は,日本に指揮権のない軍隊であっても,わが国が外部からの武力攻撃に対する自衛に使用する目的で合衆国軍隊の駐留を許容することは,日本国憲法第9条2項前段の禁止する陸海空軍,その他の戦力に該当すると述べたうえ,日米安全保障条約を違憲とし,被告人らを無罪とする判決を下しました (下級刑集1巻3号 776頁) 。これがいわゆる「伊達判決」と呼ばれるものです(前述の松本先生も左陪席で,「伊達判決」に関わっています。)。
  驚いた検察側は,この判決に対し,最高裁判所に跳躍上告をしました。最高裁判所大法廷は,同年 12月 16日,9条2項がその保持を禁止した戦力とは,日本がその主体となってこれに指揮権,管理権を行使し得る戦力であって,合衆国軍隊の駐留はこれに当たらないことなどを理由に,原判決を破棄し,東京地裁に差し戻しました。その後,この事件は差戻し第1審で有罪の判決があり,同第2審で控訴棄却となり,確定したという経緯があります。
  昨年(2018年・平成30年)7月18日,砂川事件の再審請求事件について,最高裁第二小法廷が,平成29年(2017年)11月15日の東京高裁即時抗告棄却決定に対する再審請求人の特別抗告を棄却する決定を下し,再審請求を認めなかったことは記憶に新しいところです。

  砂川事件判決から,本年は60周年。「破ったら血が出るような判決を書け」との覚悟をもって刑事裁判に関わっている裁判官,検察官,弁護人ばかりですといいですね(少なくとも当職はそうありたいと思っています。)。

投稿者: 弁護士濵門俊也

強制わいせつ罪の成立要件をめぐる47年ぶりの判例変更

2017.12.15更新

相続相談弁護士ガイドに取材を受けました

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こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 最高裁大法廷は,平成29年11月29日,強制わいせつ罪の成立要件について,性的意図を一律に求めていた47年前の最高裁判例(最判昭和45年1月29日刑集24巻1号1頁。以下「昭和45年判例」といいます。)を変更しました。司法試験の受験時代から違和感のあった判例が変更されることとなり,結論は妥当だと思います。ただ,公表されている判決文をよく読みますと,単純に性的意図不要説を採用したとは言い難い表現もあるように思います。
 今回は,判決理由等に言及しつつ,今後の実務への影響を考えてみましょう。

●判例変更に至る経緯

 今回の事案は,被告人が,知人から借金をする条件として,その要求に従い,7歳の被害者女子児童に対し,自宅で自己の陰茎を口にくわえさせるなど,性的虐待を加えたうえで,その状況をスマートフォンで撮影し,知人に送信したというものです(よって,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反の罪(本件では,児童ポルノ製造・提供罪です。)にも問われています。)。
 この点,昭和45年判例では,強制わいせつ罪の成立要件について,行為の性質や内容にかかわらず,犯人の性的意図を要するという一律必要説が妥当であるとされていました(ただし,小法廷のうち3対2という僅差であったようです。)。
 事案は,被害者女性の手引で内妻が逃げたと信じた男が,報復のためにその女性を脅して裸にさせ,写真撮影したというものでしたが,男に性的意図が認められないことから,強制わいせつ罪は成立しないと判断したわけです(もちろん,強要罪は成立し得ます。)。
 他方,昭和45年判例を前提としつつも,その後,これまで今回のような事案と同種のケースが起訴されますと,裁判所は,たとえ被告人が性的意図を否認していたとしても,犯行の内容や状況などから性的意図があったと認定してきました。
 今回の事案でも,当初,検察側はその旨の主張をしていたようです。
 しかし,第一審は,証拠上,被告人に性的意図があったと認定するには合理的な疑いが残ると判断しました。これにより,にわかにざわつき始めるわけです。
 もし必要説に立てば強制わいせつ罪は無罪となる一方,不要説に立てば有罪となります(どちらも児童ポルノ製造・提供罪では有罪となります。)。
 これに対し,第一審,控訴審とも昭和45年判例を否定し,つぎのような明確な不要説に立ち,有罪としたうえで,児童ポルノ製造罪などとあわせ,被告人を懲役3年6月の実刑判決を下しました。
 「強制わいせつ罪の保護法益は,被害者の性的自由と解されるところ,行為者の性的意図の有無によって,被害者の性的自由が侵害されたか否かが左右されるとは考えられない」
 「行為者の性的意図が強制わいせつ罪の成立要件であると定めた規定はなく,同罪の成立にこのような特別の主観的要件を要求する実質的な根拠は存在しない」
 「客観的にわいせつな行為がなされ,行為者がそのような行為をしていることを認識していれば,同罪が成立する」
 これを受け,判例違反などを理由として弁護側が上告していたところ,最高裁大法廷は47年ぶりの判例変更を行い,上告を棄却したという次第です。

●処罰対象を適切に決することができなくなった昭和45年判例

 その理由として,まず最高裁大法廷は,おおむねつぎのように述べ,昭和45年判例の問題点を指摘しました。
① 強制わいせつ罪が成立するか,法定刑の軽い強要罪等が成立するにとどまるのか,性的意図の有無によって結論を異にすべき理由を明らかにしていない。
② 強姦罪の成立には故意以外の行為者の主観的事情を要しないと一貫して解されてきたこととの整合性に関する説明もない。
 そのうえで,最高裁大法廷は,おおむねつぎのような理由を挙げ,「今日では,強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべき」とし,47年前の社会情勢などを前提とした昭和45年判例はもはや維持し難いとしました。
① 元来,性的な被害に係る犯罪規定やその解釈は,社会の受け止め方を踏まえなければ,その処罰対象を適切に決することができないという特質がある。
② 昭和45年以降,その時代の各国における性的被害の実態とそれに対する社会の意識の変化に対応し,各国の実情に応じて犯罪規定の改正が行われてきた。
③ わが国でも,性的被害に係る犯罪やその被害の実態に対する社会の一般的な受け止め方の変化を反映し,平成16年の刑法改正で強制わいせつ罪や強姦罪の法定刑を引き上げ,平成29年の刑法改正でも強制性交等罪を新設,法定刑を更に引き上げ,監護者わいせつ罪や監護者性交等罪を新設するなどしている(筆者注:法改正の流れを追ってしまったため,平成29年改正に言及しただけだとは思いますが,行為後の事情で解釈変更されたような印象を与えかねないので,少し表現の配慮が必要であったと思います。)。

 たしかに,もし現時点で被告人が同じ行為に及べば,強制わいせつ罪ではなく,強姦罪改め「強制性交等罪」が成立し,懲役5年以上の重い刑罰が科されます。
 改正により,膣内挿入のみならず,肛門内や口腔内への陰茎挿入も強制性交等罪で処罰されることになったからです。
児童に対する性的虐待を児童ポルノ製造・提供罪で有罪とするにとどめ,強制わいせつ罪について無罪放免とすることは被害の実態からかけ離れていますし,到底許しがたいものです。昭和45年判例を否定してまでも,何とかそれを併せて処罰したいという裁判所の価値判断が強く働いたのかもしれません。

●「わいせつな行為」に当たるか否かの判断

 ただ,最高裁大法廷は,「個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い」とし,つぎのような理由を述べています。

① 刑法176条にいう「わいせつな行為」と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められ,直ちに「わいせつな行為」と評価できるものと,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが「わいせつな行為」として処罰に値すると評価すべきではない。
② いかなる行為に性的な意味があり,処罰に値する行為とみるべきかは,その時代の性的被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄である。
③ 「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ない。

●判例変更による場合分け

 今回の判例変更によって,強制わいせつ罪の成否を検討する際,つぎのような場合分けをすべきいう立場が採用されているといえるでしょう。

(ア) 行為そのものが持つ性的性質が明確で,当然に性的な意味があると認められ,直ちに「わいせつな行為」と評価でき,強制わいせつ罪による処罰に値するケース
→性的意図不要(検討も不要)

(イ) (ア)同様に直ちに「わいせつな行為」と評価できるが,強制わいせつ罪による処罰に値するか否か微妙なケース
 →性的意図の有無を考慮

(ウ) 行為そのものが持つ性的性質が不明確で,行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ性的な意味があるかどうかが評価し難いケース
→性的意図の有無を考慮

●今後の実務への影響

 昭和45年判例で検討された報復目的の事案は,先に触れたように被害女性を裸にさせて写真撮影したというものであり,上記(ア)に当たるといえるでしょう。
 また,少なくとも自己の陰茎を触らせたり,被害者の胸や臀部,陰部を触ったり,キスをしたり,膣内や肛門内に指や異物を挿入したり,裸にして胸や臀部,陰部を露出させるといった場合には,基本的に上記(ア)に当たると評価されると思われます。

 問題は,上記(ア)と上記(イ)との区別となりますが,最高裁大法廷はその判断基準を示していません。結局,ケースバイケースということになるでしょう。
 また,実際に立件・起訴される例としては少ないものの,上記(ウ)に当たるものとしてどのような事案があり得るのかという点も問題となります。
 たとえば,医師による医療的措置は,上記(ウ)の領域で検討され,強制わいせつ罪に当たらないと評価することが考えられます。
 特殊な行為に対して性的興奮を覚える性癖を持つケース,例えば0歳~5歳程度の乳幼児に対する性愛者などについても,上記(ウ)に当たり,性的意図があるということで,強制わいせつ罪として処罰されるということになるかもしれません。

投稿者: 弁護士濵門俊也

性犯罪に関する刑法大改正!その概要を解説

2017.07.25更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

平成29年6月16日,性犯罪を厳罰化することを含む等の刑法改正案が参議院で可決・成立し,7月13日から施行されました。
性犯罪に関する刑法の改正はしばしばされていたのですが,今回のような大幅な改正は,明治40年(1907年)に刑法が制定されて以来,実に110年ぶりなのです。
性犯罪は被害者の人格を踏みにじる「魂の殺人」ともいわれる深刻な人権侵害行為であり,とりわけ女性に対する性犯罪は「女性に対する暴力の一つ」として,女性に対する暴力撤廃宣言(1993年12月,第48回国連総会で採択された宣言)などの国際文書で,根絶に向けた各国の努力が要請されてきました。
ところが,わが国では性犯罪が軽く扱われる傾向にあり,性犯罪に対するわが国の取り組みは著しく遅れていたといえます。
こうした中,たくさんの性犯罪被害者は泣き寝入りを余儀なくされてきた歴史があります。
近年,こうした性犯罪被害者の方々が声をあげはじめ,法務大臣が見直しの検討を指示,法務省における有識者を交えた検討のすえ,法案が上程され,成立したのです。
そこで,今回はその改正法の概要を説明いたします。

■ 改正その1――男性への被害も処罰されることに
まず,強姦罪の名称が「強制性交等罪」に変更されました。
これまで強姦の被害者は女性に限定されていたのですが,「強制性交等罪」の被害者には男性も含まれることとなりました。
これに関連して,それまで男性器の膣への挿入に限定されていた強姦罪の構成要件的行為を「性交等」(膣性交,肛門性交,口淫性交)にも広げました。

とくに注目したいのは,被害を男性に対する被害にも拡大したことです。
男性から男性,女性から男性に対する性犯罪・性虐待は,実際はこれまでもあったのですが,なかなか顕在化されませんでした。男性が被害者となること,被害者の保護や支援の必要性についても社会的な理解が十分であったとは到底いえませんでした。そのため,女性の被害者よりもさらに孤立した状況に置かれていました。 
当然ながら男性に対する性犯罪・性虐待も深刻な被害をもたらすものであり,強姦の客体に含まれないのは性による差別的取扱いともいえるべき問題を含んでいました。今回の改正により,男性に対する性交も処罰することとしたことは画期的といえます。処罰対象となる性交行為も拡大し,強制的な肛門性交,口淫性交も処罰対象に入れました。
もちろん,女性に対して,口淫性交を強要したようなケースも「強制性交等罪」に該当することとなり,女性の被害として処罰される範囲も広がりました。
同様に,飲酒や薬物の影響などで抵抗できない状況にある人に性行為等をする,いわゆる準強姦と言われた犯罪は,「準強制性交等罪」となり,処罰される行為も広がり,男性も対象となりました。
なお,これ以外に従来どおり,強制わいせつ罪は残っています。

■ 改正その2――刑の引上げ・厳罰化
つぎに,強姦罪改め,強制性交等罪の法定刑が引き上げられ厳罰化が図られました。
これまでは,強姦罪の法定刑の下限は「懲役3年」とされており(これでも引き上げられた経緯があります。),初犯の場合ですと実刑とはならず執行猶予が付くことがほとんど,という現状がありました。
しかし,加害者が執行猶予によって社会復帰を果たせるのに対し,被害者はPTSDや男性恐怖症,加害者への恐怖心に長く苦しむ例が少なくありません。被害者の視点からみれば,「魂の殺人」といっても過言ではないほど深刻な心の傷を被ることや被害の重大さに見合った刑罰とは到底いえません。実際,諸外国の例から見ても著しく軽いものでした。
そこで,今回の改正では,法定刑の下限を5年に引き上げる改正が実現したのです。
強制性交の過程でけがをしたり,死んでしまったという結果が出た場合は6年以上の刑となります。

■ 改正その3――「親告罪」規定の撤廃
第3は,「親告罪」規定の削除です。
これまで強姦罪等で起訴するためには被害者が「告訴」という手続をとることが必要でした(こうした犯罪を「親告罪」といいます)。
強姦罪等を親告罪とした趣旨は,性犯罪の被害者の意思とプライバシーを尊重するという点にありました。
しかし,「告訴」がない事例では犯罪の捜査が進みにくくなります(捜査機関もあまり熱心に取り組んでくれないこともままあります。)。
他方,一般人の被害者にとって「告訴状」等を準備して提出すること自体ハードルが高いことは,言うまでもありません(ちなみに,かつては,強姦罪等にも「告訴期間」があり,6か月間に告訴しないと,もう犯罪として立件してもらえないという法制度となっていました。平成12年改正によってようやくこれが撤廃されたのです。)。
そこで,強姦罪や強制わいせつ罪も,他の犯罪と同様に,「被害届」だけで捜査が進むことが求められてきたのです。
また,「告訴」が要件であることから,加害者側が「今告訴を取り消せば示談金を支払うが,告訴を取り消さなければ徹底して裁判で争う」などと強引に被害者にアプローチをして動揺させた結果,被害者が精神的に参ってしまい告訴を取り消してしまうような事例もあったようです。
このように,強姦罪等が「親告罪」であったことが,本来の趣旨とは裏腹に,性犯罪の不処罰につながる役割を果たす結果となってきた面があるのです。
そして,よく考えてみると,たとえ親告罪でなくなったとしても,被害者が協力しない場合に無理やり立件・起訴することはそもそも不可能なはずです。こうしたことを考えると,どうしても親告罪としなければならない理由はないと考えられます。 
こうした背景もあって親告罪とすることはしないこととなりました。親告罪の規定は強姦罪のほか,強制わいせつ罪などでも撤廃され,施行前に起きた事件にも原則適用していくこととなりました。

■ 改正その4――支配的な地位を利用した性行為は暴行・脅迫がなくても処罰する。
第4は,親などの「監護者」が,支配的な立場を利用して18歳未満の子どもと性交したり,わいせつ行為を行った場合,暴行や脅迫がなくても強姦罪等が成立する,とした点です。
強姦罪等の成立には,被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫が要件とされていますが,子どもに対する性的虐待のケースでは,その多くが,子どもに対する支配的な影響力を利用して,子どもが抵抗できないままに行われていることが多いのが実情です。
13歳未満に対する性交は必ず強姦とされますが,これまでは,13歳以上で親族等に暴行等をともなわずに性虐待された場合は強姦罪等に問われないこととなっていました。
しかし,それでは,多くの性虐待事例が強姦罪等に問われず,不処罰を許すことになってしまいます。
そこで,性虐待被害者の方々の意見を受けて,暴行・脅迫要件が撤廃されました。

■ 3年後の見直し――さらなる議論の深化を

今回の刑法改正では被害者の声も受けて3年後に規定の見直しがされることとなりました。暴行・脅迫要件を見直し,被害者の意に反する性行為を広く処罰していくことが国会できちんと議論されることが期待されています。 それと同時に,立法任せにせず,望まぬ性行為の被害をなくすために,社会的にも,とりわけ職場や学校でも議論が深められるとよいと思います。

投稿者: 弁護士濵門俊也

無線LANただ乗り事件についに判決!その結果は「無罪」!?

2017.04.28更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

他人の家の無線LANを勝手に使う「ただ乗り」を電波法違反の罪に問えるかどうかが争われた刑事裁判の判決において,東京地方裁判所は,平成29年4月27日,被告人が入手した無線LANの暗号化鍵(パスワード)について,電波法が無断使用を禁じる「無線通信の秘密」には該当せず,「ただ乗り」を無罪と判断しました。
無線LANの普及が急速に進む中,本件はただ乗りが検挙された初めてのケースであり,裁判所の判断に注目が集まっていました。
裁判所は,無線通信の秘密については「一般に知られていない通信の内容や存在」と定義し,そのうえで「暗号化鍵は通信の内容を知るための手段・方法にすぎない」としました。そして,「暗号化鍵が通信の内容を構成するとはいえず,他人の暗号化鍵を使っただけでは,罪にはならない」と結論付けました。

さらに,被告人は,ただ乗り無線LANを経由してフィッシングメールを送付しIDやパスワードを窃取して悪用していた行為に対し,ただ乗りに対する電波法違反に加え,不正アクセス禁止法違反,電子計算機使用詐欺罪に問われていました。判決においては,不正アクセス禁止法違反及び電子計算機使用詐欺罪については有罪とされた一方,電波法違反については無罪とされ,懲役8年(求刑懲役12年)が言い渡されたわけです。不正アクセス禁止法違反などについては異論はないと思われますが,電波法違反の無罪を意外と捉える人が多かったようで,ネット上でも疑問を呈する意見が多く見られます。

たしかに,暗号を解読して勝手に他人の家のネットワークに入り込んだにもかかわらず,そのこと自体は,「何らお咎めなし」というわけですから,何となく違和感があることは否めません。たとえば,もし合鍵を勝手に作って他人の家に入れば,たとえ家の中のものに何も手を付けずとも住居侵入罪に問われ得ます。これがネットワークなら許されるというのでは妙な話と思っても仕方ないでしょう。

●暗号通信を「復元」しなければ電波法違反に問うのは難しい

そもそも,無線LANの暗号鍵解読が違法かどうかについては,以前から論議がありました。

暗号鍵の解読について適用される可能性があるのは,電波法第109条の2です。

「暗号通信を傍受した者又は暗号通信を媒介する者であつて当該暗号通信を受信したものが,当該暗号通信の秘密を漏らし,又は窃用する目的で,その内容を復元したときは,一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」

ここでポイントとなるのは,「当該暗号通信の秘密を漏らし,又は窃用する目的で,その内容を復元」という部分です。もし暗号鍵を解読したうえ,そのアクセスポイントの持ち主など正規の使用者が行っていた暗号通信を傍受し,暗号鍵を使ってそれを復元して内容を他人に伝えたりすれば,上記条文に抵触することとなるでしょう。他人に伝えなくても,プライベートな情報を覗く目的だけであっても「窃用」といえると思われます。

しかし,単にただ乗りすることのみが目的であるとすれば,通信内容の解読は不要です。当然ながら,他人の通信を覗き見しなくてもアクセスポイントを経由してインターネットに接続するには何ら支障はありません。そもそも,暗号化方式がWEPにせよWPA/2にせよ,解読に必要なのは,ユーザーが実際に利用する情報ではなくシステム的なやり取りだけなのです。さらにWEPの場合なら何の暗号化もされていない部分の取得で解析できます。
すなわち,本件における被告人が,実際に通信を傍受して解読したと証明できなければ,無罪という判断も当然あり得るということとなります。

●法律は時代遅れ…。ただ,もはや喫緊の課題ではない。

暗号通信の秘密の漏洩・窃用を違法とした改正電波法が施行されたのは,平成16年のことです。その背景には,おそらくその数年前に話題となったコードレス電話の盗聴への対応であったと思われます(もちろん,時期的に無線LANも念頭に置かれていた可能性はあると思います)。しかし,コードレス電話の盗聴なら「通話内容を知る」という以外の目的はほぼないと思われますが,無線LANの場合は通信を傍受・復元して窃用すること以外の行為,例えば「通信内容に興味はなくただ接続する」という悪用もあり,このことは想定していなかったと思われます。
結局,本件は,法律が時代遅れであったために無罪とされたということとなります。ネット関連や新しい技術については法律が後追いになってしまうのはやむを得ないですが,無線LANについては長い間問題提起されていたのに放置されすぎていたという感は否めないところです。
もっとも,現在においてはもはや無線LANただ乗りへの対応自体が,さほど喫緊の課題という話ではなくなってしまったともいえます。といいますのは,無線のLANただ乗りは,要するに暗号化鍵を解析できるからこそ可能となるわけですが,現在販売されているほとんどの家庭用・法人用無線LAN機器は,デフォルトで解析が困難な設定となっているのです。WPA2 CCMPでパスワードが適切に設定されていれば,もはや解析はほぼ不可能といっていいという話もあります。

このまま判決が確定するのか上級審に持ち込まれるのかは現時点では不明です。
当職もユーザーの一人として,ただ乗りの被害に遭わず無線LANを安全に利用したいと思います。

投稿者: 弁護士濵門俊也

マネキンフラッシュモブ禁止取消し,その問題点

2017.03.14更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

海老名駅の自由通路で市民団体が行った「マネキンフラッシュモブ」と呼ばれる表現活動に対し,海老名市が発令した市条例に基づく禁止命令は表現の自由を過剰に規制するもので違憲として,メンバーらが市を相手取り命令の取り消しを求めた訴訟の判決で,横浜地方裁判所(大久保正道裁判長)は平成29年3月8日,「命令は違法」として原告側の訴えを認めました。
 
■「条例の解釈適用を誤った」
 
判決によりますと,市民団体のメンバーらは昨年2月,「アベ政治を許さない」などのプラカードを掲げながらマネキンに扮して静止するパフォーマンスを自由通路上で実施したそうです。市はこうした行為を市海老名駅自由通路設置条例で禁じた集会やデモに該当すると判断し,同3月に参加者の1人だった市議会議員に対して禁止命令を出しました。
 
大久保裁判長は判決理由で,一連のパフォーマンスの時間や規模から,「多数の歩行者の安全で快適な往来に著しい支障を及ぼすとまでは認められない」と指摘しました。条例で規定された禁止行為に該当しないと認定したうえで,市の命令を「条例の解釈適用を誤った違法なもの」と判断しました。
 
市議会議員を除くメンバーが請求した今後の禁止命令の差止めに関しては,市側が訴訟で命令を出す予定がないと明らかにしたことから却下しました。
 

■条例の改廃の議論が高まるか?
 
上記判決は条例の違憲性や適用の違憲性までは判断していませんが,海老名市の禁止命令を違法とした判断は,市条例の恣意的運用に歯止めをかけ,政治的権力の濫用に警鐘を鳴らすものとして重要な意味をもつといえます。表現行為の規制は必要最小限度の極めて限定的なものでなければならないという日本国憲法上の大原則を再確認したともいえます。
 
上記判決は,マネキンに扮したパフォーマンスを市条例が禁じた「集会,デモ,座り込み」に当たるとした市の判断が誤りであったと判断しました。当該パフォーマンスは「相当時間にわたり相当部分占拠する様態ではない」「安全で快適な往来に著しい支障をきたすおそれが強い行為とまで認められない」ため,規制され得るものとはいえず,表現の自由を尊重した判断といえます。規制され得る行為か否かの判断に「相当時間にわたり相当部分占拠する様態」といった限定的な基準を示している点も評価できます。
 
道路交通法第77条第1項第4号の解釈をめぐって,駅前のビラまきは許可不要とした東京高判昭和41年2月28日を踏襲した判断ともいえ,市条例の運用に当たっては道路交通法を上回る規制は許されないことを示した格好です。市条例によるデモの禁止条項は不要かどうかについては議論のあるところですが,濫用の具体例の一つとして当該パフォーマンスが認定された以上,改廃の議論も高まる可能性があります。

投稿者: 弁護士濵門俊也

神宮外苑火災で男児死亡、学生・大学・イベント主催者の「法的責任」

2016.11.10更新

東京の明治神宮外苑で開かれたイベント「東京デザインウィーク」で11月6日、展示物が燃える火災があり、5歳の男児が死亡、父親ら2人がケガをした。報道によると、展示物は、木製のジャングルジムで、おがくずが絡みつくように装飾されており、電球でおがくずを照らしていたという。

このジャングルジムは、日本工業大学の建築学科の学生らが所属する「新建築デザイン建築会」が出展した。警視庁の調べに対して、制作に関わった大学生は「(ジャングルジムの)内部を照らすために白熱電球を点灯させていた」と話したという。

出火原因は今のところ明らかになっていないが、警視庁は11月7日、白熱電球の熱でおがくずが燃えた可能性があるとみて、業務上過失致死傷容疑で現場検証をおこなった。大学側とイベント主催側は謝罪をおこなったが、法的な責任の所在はどこにあるのだろうか。濵門俊也弁護士に聞いた。

●刑事責任だけでなく民事責任も問題になりえる

「まずは、被害に遭われました方々、とくにわずか5歳の尊き生命を奪われたご遺族の方々に対し、心よりお悔み申し上げます。

報道によりますと、今回の事件は、業務上過失致死傷の被疑事実で現場検証されているようです。刑事責任の側面だけではなく、損害賠償請求という民事責任の側面も問題となりえます。

民事責任も刑事責任も、(1)法的責任を負う主体が負うべき注意義務の内容がどのようなものであるかを明らかにすることが前提となります。

そのうえで、注意義務違反があるというためには、(2)危険な結果の予見可能性があり、かつ危険な結果につき結果回避の可能性があったことが必要となります。

さらに、(3)義務違反と結果との間に相当因果関係があったことが必要となります。

以上を前提に、法的責任を負う主体について、検討してみます。なお、今回の事件の具体的事情がかならずしも明らかでありませんので、あくまでも可能性の話ということを断らせていただきます」

●学生たちの責任は?

「報道から得られる情報が、やや錯綜していますが、今回の作品には白熱球が使用されていたようです。

まず、そもそも学生たちには、可燃性の高いおがくずが電球の発する熱によって出火しないよう注意すべき義務があったといえます。しかし、学生たちは独自の判断で、LED電球から白熱球に変更したようです。白熱球はLED電球よりも周囲が高温になりやすいことがよく知られています。

当初はLED電球を使用することが決まっており、現場の判断で学生が白熱球を使用したとすれば、この熱によって、おがくずを照らせば出火するおそれがあります。おがくずから出火すれば、ジャングルジムは、可燃性の高いおがくずが絡みつくように飾られていたことから、火が容易に燃え広がり、その火がジャングルジムの内外にいる人々らの生命・身体・財産などに被害を生じさせる結果となることは十分に予見可能であったし、容易に回避できたはずです。

したがって、学生たちには注意義務違反が認められるといえます。

そして、学生たちの注意義務違反と被害との間に、相当因果関係が認められれば、学生たちは、民事上は損害賠償責任(民法709条、同710条)を、刑事上は業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を問われえます」

●大学側と主催者の責任は?

「大学側は、学生がLED電球ではなく白熱球を使用していたことを認識していなかったなどとコメントしているようですが、仮にそうであったとしても、大学としては学生たちの行動について指揮監督すべき関係はあったはずです。したがって、管理監督責任を負う場合がありえます。

その場合、大学は、民事上は使用者責任としての損害賠償責任(民法715条1項)を問われえます。他方、刑事上は業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を問われえますが、刑事上の管理監督過失は民事上のそれよりハードルは高いです。

主催者側も、観客の安全を確保すべき義務があると認められる場合もあるでしょう。この場合、民事上は主催者自身の責任としての損害賠償責任(民法709条、同710条)、または大学ないし学生たちに対する指揮監督関係が認められば、使用者責任(民法715条1項)を問われえることとなるでしょう。

ただし、刑事責任としては難しい点が多いです(明石市花火大会歩道橋事故事件参照)。

なお、刑事責任にはありませんが、民事責任においては、損害の公平な分担の見地から、過失相殺が認められています(民法722条2項)。被害者は5歳ということですので、ご本人に事理弁識能力はありませんが、ご両親などの被害者側の過失を考慮することはできます。

もし、主催者側で『事故等の一切の責任は一切負いません』などと告知していた場合でも、一般的には、合意の内容があいまいで、実際に発生した事故については免責の合意なしと認定される場合が多いと思います。場合によっては、公序良俗違反として無効とされることもあるでしょう」

投稿者: 弁護士濵門俊也