秘密録音された証拠は民事訴訟で使えるか?!
2017.06.30更新
こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。
ある衆議院議員が元秘書に対し,暴言を吐き・暴力を加えたとして,元秘書がその様子を秘密録音した媒体が,ある出版社に持ち込まれ公表されたため,当該議員の悪行が世間を賑わせるという現象が起きています。このような上司から受ける暴言や無視,陰口といった職場の上下関係を利用した嫌がらせ行為は「パワーハラスメント(通称:パワハラ)」と呼ばれ,社会問題となって久しいところです。
労働問題の相談を受けておりますと,実際にパワハラ・セクハラを受けている時の様子をボイスレコーダーで録音した媒体を持参される方も多くなってきました。
相談者は,その録音を「証拠」として用いたいと考えて録音したのですが,逆に上司から「違法録音だ」と言われないか心配される方もおられます。このような秘密録音する行為は「違法」なのでしょうか。また,秘密録音した音声は民事訴訟などで「証拠」として使えるのでしょうか。今回は秘密録音された証拠の証拠能力を解説します。
●パワハラ・セクハラの証拠集めは「犯罪」ではない
まず訴えたいのは,パワハラやセクハラの証拠として,加害者の声をボイスレコーダー等で秘密録音すること自体は,なんら犯罪行為に該当しないという点です。
また,秘密録音したことで,慰謝料等を支払わなければならない,ということもありません。
「プライバシーの侵害になるのではないか?」との懸念をされる方もおられるかもしれませんが,まず,録音場所は,自身の所属する職場です。また,録音した会話のうち,証拠として使うのは被害者のことを話している部分です。少なくとも,会話のその部分は,加害者のプライバシー権を侵害するとはいえません。
録音した音声データを,パワハラやセクハラを理由とする損害賠償請求訴訟において,証拠として用いることは問題ありません。ただし,もし採取された証拠が「著しく反社会的手段を用いて…人格権侵害を伴う方法によって採集されたもの」(東京高判昭和52年7月15日参照)であるとみなされれば,その証拠能力が否定され,事実認定に用いられない場合もあり得ます。
●セクハラ・パワハラの「秘密録音」は証拠となるか?
それでは証拠能力が否定される「著しく反社会的手段を用いて…人格権侵害を伴う方法」とは,いったいどのような方法でしょうか。
たとえば,録音ですと「秘密にしておくから」「録音はしていないから」と相手をだまして,秘密録音をしたような場合が当てはまりそうです。また,被害者ご自身以外の第三者と加害者とが会話している様子を秘密録音するような場合も当てはまる場合があると思います。
ただ,一概に証拠能力が否定されるということはいえず,ケースバイケースで問題となることは否めないのも事実です。
いずれにしても被害者ご自身がパワハラやセクハラの被害を受けている時,その証拠を集めるために,職場における会話を秘密録音する程度であれば,それを「著しく反社会的手段を用いて…人格権侵害を伴う方法」で採取したとはいえないと思います。
なかなか根絶できないパワハラ・セクハラですが,秘密録音等の方法によって,しっかりと証拠を集められれば,少なくとも「言った言わない」の話はなくなります。前述の元秘書のケースにおいて,「被害者が加害者を煽っている」「できすぎた証拠である」などと秘密録音を揶揄するような意見が一部にあるようですが,「いじめはいじめる方が100%悪い」わけですから,自信をもって堂々と振舞ってください。
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