弁護士 濵門俊也
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北方ジャーナル事件( 最大判昭和61年6月11日 民集第40巻4号872頁)

北方ジャーナル事件( 最大判昭和61年6月11日 民集第40巻4号872頁)

2015/06/22

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

いわゆる神戸連続児童殺傷事件の加害者である通称「少年A」による手記『絶歌』(太田出版)が平成27年6月10日に発売されて以降,出版の是非を問う声が,多数あがっているようです。

以前「サムの息子法」の導入の可否について記事を書いた際(平成27年6月18日付け),当職は「見ない。買わない」という不買活動という視点もあるように思いますと述べましたが,書籍の販売と購入の自粛を求める意向を示す書店等も少しずつ出てきました。

やや過激な主張として,上記書籍の出版差止めをすべきといったものもあります。出版差止めと聞きますと,当職は「北方ジャーナル事件」を思い出します。

そこで,今回は,「北方ジャーナル事件」について,触れておきます。

 

 

 

【事件概要】

 

昭和54年(1979年)施行の北海道知事選に立候補予定の者を批判攻撃する記事を掲載した雑誌が,発売前に名誉毀損を理由に差し止められた事件

 

 

 

【判示事項及び裁判要旨】

 

1 出版物の印刷,製本,販売,頒布等の仮処分による事前差止めと日本国憲法(以下「憲法」という。)21条2項前段にいう「検閲」

雑誌その他の出版物の印刷,製本,販売,頒布等の仮処分による事前差止めは,憲法21条2項前段にいう「検閲」に当たらない。しかし,事前差止めは,「事前抑制そのもの」であるから厳格かつ明確な要件が必要である。

 

 

 

2 名誉侵害と侵害行為の差止請求権

名誉侵害の被害者は,人格権としての名誉権に基づき,加害者に対して,現に行われている侵害行為を排除し,又は将来生ずべき侵害を予防するため,侵害行為の差止めを求めることができる。

 

 

 

3 公務員又は公職選挙の候補者に対する評価,批判等に関する出版物の印刷,製本,販売,頒布等の事前差止めの許否

人格権としての名誉権に基づく出版物の印刷,製本,販売,頒布等の事前差止めは,上記出版物が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価,批判等に関するものである場合には,一般にそれらは公共の利害に関する事項であり,その表現は私人の名誉権に優先する社会的価値を含むので,原則として許されない。

ただし,①表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって,かつ,②被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り,例外的に許される。

 

 

 

4 公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によって命ずる場合と口頭弁論又は債務者審尋

公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によって命ずる場合には,③原則として口頭弁論又は債務者の審尋を行い,表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えなければならない。

ただし,債権者(名誉権を侵害された立候補予定者)の提出した資料によって,①表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であり,かつ,②債権者(出版社)が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があると認められるときは,口頭弁論又は債務者の審尋を経なくても憲法第21条の趣旨に反するものとはいえない。

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弁護士 濵門俊也
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