弁護士 濵門俊也
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刑の執行猶予を学ぶ

刑の執行猶予を学ぶ

2015/09/17

こんにちは。日本橋人形町の弁護士・濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 ニュース報道等をみますと,「執行猶予付きの有罪判決が下されました」などというコメントを聴くことがあります。この「執行猶予」とは何でしょうか?今回は,刑の執行猶予について学んでいこうと思います。

 

●刑の執行猶予とは?

 これは,刑の執行(たとえば,刑務所に入所させる懲役刑や,罰金を払わせる罰金刑を執行して,実際に刑務所に入れたり,罰金を払わせたりすること)を,猶予してあげる制度です(ちなみに,罰金刑の執行猶予はあまりお目にかかりません。)。

 たとえば,「懲役1年6月,執行猶予3年」という判決が下された場合には,本来であれば,刑務所に1年6か月入らなければいけないという刑ですが,3年間何事もなく過ごすことができれば,刑務所に入らなくて済みますよというものなのです。

 そして,その3年の間に罪を犯すようなことがなければ,刑の言渡し自体が失効します(刑法27条)。

 

 執行猶予と聴くと,悪いことをした人なのに自由にしていいのかと思われる方もおられるかもしれません。

 しかし,あくまでも有罪判決ですから,猶予期間経過後もう一度何か犯罪行為をすれば,ほぼ確実に刑務所に行くこととなります。再度の執行猶予判決ということも,法律上はあり得ますが,非常にレアなケースです。

 

 執行猶予付き判決を受けた被告人は,もちろん自身も深く反省していますが,同時に,外部から,もう二度と悪いことはできないという無言の心理的圧力を受けながら生活することとなります。

 現実社会には困難や試練が多いのは,ご承知のとおりです。刑務所に入って生きるよりも,自由で,なんでもできる社会の中でまっとうに生きていくことの方が難しいかもしれません。

 そういう方が,社会内で更生し,ふたたびやり直せるように,社会内で生きていく試練を与える制度が執行猶予といえるでしょう。

 

●執行猶予の要件は難しい…

 そのような執行猶予制度ですが,要件が,少し法文からは分かりにくいと思います。

 刑法25条には,以下のように記載があります(刑の一部の執行猶予が認められ,平成28年から施行されますが,まだ施行前ですので,現行法のまま掲載します。)

第25条 次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その執行を猶予することができる。

一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け,情状に特に酌量すべきものがあるときも,前項と同様とする。ただし,次条第1項の規定により保護観察に付せられ,その期間内に更に罪を犯した者については,この限りでない。

 

 これを読むと,執行猶予の要件は,

① 「次に掲げる者」であること : 25条1項1号または2号に掲げる者であること

② 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたこと

③ 執行を猶予するべき情状が認められること

の3点となります。

 このうち,①「次に掲げる者」であること : 25条1項1号または2号に掲げる者であること

の要件のうち,

25条1項1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」は分かりやすいと思います。

 しかし,25条1項2号の

「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」

は,少し分かりづらいです(当職も受験時代苦労しました。)。

 たとえば,懲役刑を受けて3年前に刑務所から出所した人は,25条1項2号に該当するのでしょうか。

 この点,懲役刑を受けたのですから,「前に禁錮以上の刑に処せられたことがある」といえます。

 では,「その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」とはいえるでしょうか。

 この点,3年前に刑務所から出所したのだから,出所した日(その執行を終わった日)から今回までに,禁固以上の刑に処せられていなければ,「その執行を終わった日(中略)から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」といえるようにも思います。「5年以内は,ちゃんとやってたよ」といえるような気もします。

 しかし,「その執行を終わった日(中略)から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」(刑法25条1項2号)という文言は,禁錮以上の刑に処せられることなく5年以上の期間が経過していることをいう,と解釈されています

 すなわち,出所してから5年以上経過していないと,「その執行を終わった日(中略)から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」とはいえないのです。

 そうしますと,上記の例でいえば,3年前に刑務所から出所した人は,「次に掲げる者」(刑法25条)に当たらず,執行猶予判決はもらえないのです。

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弁護士 濵門俊也
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