弁護士 濵門俊也
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「嘱託殺人罪」を学ぶー三重の女子生徒殺害事件を素材として

「嘱託殺人罪」を学ぶー三重の女子生徒殺害事件を素材として

2015/09/30

 こんにちは。日本橋人形町の弁護士・濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 三重県伊勢市の丘陵地で平成27年9月28日夜,県内の高校に通う女子生徒の遺体が発見された事件で,三重県警察に殺人の被疑事実で逮捕された同じ高校に通う男子生徒が,これまでの取調べに対し,「(女子生徒に殺害を)頼まれた」と供述していることが報道されています。

 わが国の刑法は,通常の殺人罪のほかに「嘱託殺人罪・承諾殺人罪」(二罪合わせて「同意殺人罪」といいます。)を処罰しています。

 そこで,今回は「嘱託殺人罪」について説明してみます。

 

●嘱託とは?

 「嘱託」とは,被害者が積極的に殺害を依頼することです。

 嘱託殺人罪の保護法益は,「人の生命」であるところ,被害者が自らの生命という法益の処分に同意しているわけですから,法益侵害行為がなく犯罪自体が成立しないのではないかとの疑問が生じます。

 その疑問に対しては,被害者の承諾により生命侵害行為の違法性が減少するものの,なお処罰に値する違法性は残るというパターナリズムの観点からの説明がなされます。 

 

●嘱託殺人罪の法定刑

 嘱託殺人罪の法定刑は,「6月以上7年以下の懲役又は禁錮」とされており,「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」を法定刑とする通常の殺人罪よりは軽いです。

 その理由は,嘱託殺人の場合,被害者が自らの生命を放棄していることから通常の殺人罪よりは違法性が減少しているためです。

 

●「嘱託」の主張・立証責任

 「嘱託」という事実は,それが認められれば通常の殺人罪よりも法定刑が軽くなるわけですから,被告人にとって有利な事実です。

 もっとも,刑事訴訟においては「疑わしきは被告人の利益に」という鉄則があり,検察官が犯罪事実の立証責任を負っています。すなわち,検察側で「嘱託がなかったこと」を立証しなければならないのです。

 検察官としては,「嘱託」がなく通常の殺人罪が成立すると考える場合,被告人に被害者を殺害する強い動機があったこと,被害者が嘱託を行える状況になかったこと,被害者が自身の今後の生存を前提とする行動をしていたこと等を主張・立証して「嘱託がなかったこと」を証明することとなると思います。

 

●本件事案の見立て

 女子生徒の友人らによると,女子生徒は日ごろから「18歳までに死にたい」などと周囲に漏らしていたといいます。これは,女子生徒が今後の生存を否定していた事実であり,「嘱託がなかったこと」の消極的事情(まどりくどい表現ですが,要するに嘱託があったことをうかがわせる事情ということです。)といえます。

 また,司法解剖の結果,女子生徒の死因は「左胸」を「刃渡り約20cmの包丁」で「1回刺された」ことによる「失血死」で,「傷は心臓に達していた」そうです。「刺し傷以外に争ったような傷」はないとのことです。怨恨の線は難しいでしょうし,できるだけ苦痛を与えないように身体の枢要部である心臓のある左胸を一刺しして仕留めたとも考えられ,これまた「嘱託がなかったこと」の消極的事情といえます。

 以上の事情から,本件事案は,十分嘱託殺人の可能性もあると思います。

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弁護士 濵門俊也
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