弁護士 濵門俊也
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冒頭陳述における異議を考える

冒頭陳述における異議を考える

2015/10/28

こんにちは。日本橋人形町の弁護士・濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 本日(平成27年10月28日),自身の妻との関係をめぐりトラブルとなった弁護士の男性(当時42歳)の局部をはさみで切り落とし重傷を負わせたなどとして,傷害と銃刀法違反の罪に問われた元慶応大法科大学院生の被告人の初公判が,東京地裁で開かれました。被告人は「間違いありません」と起訴状記載の公訴事実を認めました。

 公判の冒頭で裁判所は,被害者男性の氏名や事務所名などを伏せて進行する方針を明らかにしたそうです。このこと自体は訴訟関係者が同意している場合は,ままあります。

 しかし,つぎの冒頭陳述に対する異議が出され,それを裁判所が認めるという事態はかなり異例です。

 弁護側は,起訴状朗読と罪状認否の後,「(公判前に受け取った)検察側の冒頭陳述には,被害者と被告人の妻とのメールのやり取りなど事件とは関連性の薄い内容が多く含まれており,そうした部分の読上げには同意できない」と異議を述べたそうです。検察側は「本件事件を理解するには過去の経緯が重要であり,全体の読上げが必要である」と意見を述べたようですが,裁判所は弁護側の異議を認め,冒頭陳述は次回に延期されたとのことでした。

 そこで,今回は,冒頭陳述に対する異議について説明します。

 

●異議の根拠条文

 違法・不相当な内容が記載されてある場合には直ちに異議を申し立て,違法・不相当な内容が法廷に現れるのを阻止しなければなりませんが,その根拠は刑事訴訟法(以下「刑訴法」といいます。)第309条第1項です。

 違法・不相当な内容には以下のものがあります。

① 罪体の認定に予断を抱かせる内容

  刑訴法296条ただし書は,「証拠とすることができず,又は証拠としてその取調を請求する意思のない資料に基いて,裁判所に事件について偏見又は予断を生ぜしめる虞のある事項を述べることはできない」と規定しています。

  また,刑事訴訟規則(以下「刑訴規則」といいます。)198条の3は,「情状に関する証拠の取調べは,できる限り,犯罪事実に関する証拠の取調べと区別して行うよう努めなければならない」と規定しています。この規定は,罪体について争いのある事件について,予断を抱かせることを防ぐための規定です。

② 冒頭陳述の欠如,内容の省略された冒頭陳述及び不完全な冒頭陳述

  検察官の冒頭陳述が,被告人の防御にとって不利益に省略された場合には,「証拠により証明すべき事実を明らかにし」(刑訴法296条本文)ていないとして,異議を申し立てることができます。

③ 証拠に基づかない冒頭陳述

  刑訴法296条ただし書の「証拠とすることができ」ない証拠としては,弁護人が同意する見込みのない供述証拠や罪体立証のための被告人の悪性格についての証拠(法的関連性がない)等があり得ます。

  刑訴法296条ただし書の「取調を請求する意思のない資料」とは,証拠請求されていない証拠です。

④ 証拠調べの先取り的な冒頭陳述

  冒頭陳述では,実質的な証拠調べの先取りと評価されるような陳述をすることはできません。法が予定していないからです。刑訴法296条本文に違反すること,又は不相当であることを理由に,刑訴法309条1項に基づき異議を申し立てます。

⑤ 書面・視覚資料に対する異議

  裁判所に誤解や予断を与え,証拠裁判主義に反するような書面や視覚資料が添付されている冒頭陳述に対しては刑訴法296条ただし書に反する違法があるとして,削除を求めます。

 

●本件へのあてはめ

 本件の弁護側の異議の根拠は,上記④あたりが考えられます。ちなみに,刑訴規則198条の2は,「訴訟関係人は,争いのない事件については,(中略)当該事実及び証拠の内容及び性質に応じた適切な証拠調べが行われるよう努めなければならない」と規定しています。

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