不作為による殺人罪ーセウォル号事件を受けて
2015/11/12
こんにちは。日本橋人形町の弁護士・濵門俊也(はまかど・としや)です。
本日(平成27年11月12日)午後,大韓民国(以下「韓国」といいます。)の最高裁に当たる大法院が,セウォル号船長に対し,不作為による殺人罪を認定し,無期懲役の判決を下したというニュースが配信されました(前回ブログを参照してください。)。
そこで,今回は,「不作為による殺人」及び「殺人の未必の故意(未必の殺意)」について解説します。
●不作為とは,法益侵害の現実的危険が発生している状況下において,何もしないで放置すること
不作為とは,目の前で人が死にかかっているにもかかわらず,何もしないで放置するといった意味です。「目の前で人が死にかかっている」という生命侵害の切迫した危険が発生している状況が不作為犯として犯罪の構成要件に該当する前提となります。
不作為による殺人罪が成立するのは,法益侵害の現実的危険が発生している状況下において,
①被害者の生命を救助すべき義務(作為義務)があること
②当該不作為が,積極的な殺人の実行行為と構成要件的に同価値であること
③作為可能性があること
④殺人の故意があること
以上の4つの要件をすべて充たす場合です。
●セウォル号事件に対するあてはめ
セウォル号事件のような事案を想定しますと,わが国でも不作為による殺人罪の成否が問われ得ると思います。
まず,旅客船の船長としては,当然,要件①の「事故時における旅客救助義務」があります。旅客を甲板に誘導するなどして,救命措置を採ることも可能であったといえますから要件③も充たします。
つぎに,セウォル号事件は,沈没しつつある船舶内で,他者からの救命が想定できず,また,旅客自身が自主的に脱出することも極めて難しい状況でした。いわば,閉じ込められた状態です。そのような乗客を放置して逃げ出す行為は,積極的な殺人の実行行為と同じように生命侵害に対する危険性が高い行為といえますから構成要件的に同価値といえます。実際,多数の旅客が死亡しています。よって,要件②も満たします。
問題は要件④です。実際セウォル号事件においても,第1審と控訴審とでは判断が分かれましたが,それは「殺人の未必の故意(未必の殺意)」の有無についてのものでした。
「殺人の故意」が認められる場合としては,被害者が確実に死亡することを認識し,その死を欲していることと考えるのが通常でしょう。これを「確定的故意」といいます。
しかし,「殺人の故意」が認められる場合とは,そのような場合に限定されないのが法律上の解釈です。
被害者が死亡するかもしれないと認識しながら,死亡してもかまわないと考えた場合も含まれるのです。このような故意を「未必の故意」といいます。
韓国の大法院もセウォル号船長について殺人の未必の故意(未必の殺意)を認定しました。
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弁護士 濵門俊也
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