「利根と通力とにはよるべからず」-「龍神」事件とシャクティパット事件
2015/11/27
こんにちは。日本橋人形町の弁護士・濵門俊也(はまかど・としや)です。
1型糖尿病でインスリン注射が必要だった男子児童(当時7歳)に注射を中断させ死亡させた殺人の被疑事実で,「龍神」を名乗る自称・祈祷師の被疑者が逮捕されました。男子児童は死亡3日前から体調が悪化したようですが,被疑者は死亡前日も治療と称する行為をしていたといいます。
男子児童のご両親は,「注射をするのがなぜ僕だけなのかと言われ,かわいそうだった」「藁にもすがる思いで頼んだが,間違いだった」と話されているそうですが,悔やんでも悔やみきれない話です。鎌倉時代に登場した法華経の行者・日蓮は,「利根と通力とにはよるべからず」(唱題法華題目抄)と明言しています。
さて,「龍神」を名乗る被疑者の逮捕罪名は「殺人」のようです。本件における被疑者の罪責を考えるうえで参考となるのが,いわゆるシャクティパット事件最高裁判決(最判平成17年7月4日刑集59巻6号403頁)でしょう。この事件は,特殊な事件に関する事例判断ではありましたが,不作為による殺人罪の成立を認めた最高裁として初めての判例であり,今後の実務や不真正不作為犯に関する議論にも有益な示唆を与えるものです。
【判旨一部引用】
以上の事実関係によれば,被告人は,自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上,患者が運び込まれたホテルにおいて,被告人を信奉する患者の親族から,重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。その際,被告人は,患者の重篤な状態を認識し,これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから,直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず,未必的な殺意をもって,上記医療措置を受けさせないまま放置して患者を死亡させた被告人には,不作為による殺人罪が成立し,殺意のない患者の親族との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となると解するのが相当である。
本件もいずれ詳細な事実関係が判明してくるものと思います。本件において,「龍神」を名乗る被疑者に対して殺人罪が成立するかどうかは慎重に捜査されるべきでしょう。
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弁護士 濵門俊也
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