神宮外苑火災で男児死亡、学生・大学・イベント主催者の「法的責任」
2016/11/10
東京の明治神宮外苑で開かれたイベント「東京デザインウィーク」で11月6日、展示物が燃える火災があり、5歳の男児が死亡、父親ら2人がケガをした。報道によると、展示物は、木製のジャングルジムで、おがくずが絡みつくように装飾されており、電球でおがくずを照らしていたという。
このジャングルジムは、日本工業大学の建築学科の学生らが所属する「新建築デザイン建築会」が出展した。警視庁の調べに対して、制作に関わった大学生は「(ジャングルジムの)内部を照らすために白熱電球を点灯させていた」と話したという。
出火原因は今のところ明らかになっていないが、警視庁は11月7日、白熱電球の熱でおがくずが燃えた可能性があるとみて、業務上過失致死傷容疑で現場検証をおこなった。大学側とイベント主催側は謝罪をおこなったが、法的な責任の所在はどこにあるのだろうか。濵門俊也弁護士に聞いた。
●刑事責任だけでなく民事責任も問題になりえる
「まずは、被害に遭われました方々、とくにわずか5歳の尊き生命を奪われたご遺族の方々に対し、心よりお悔み申し上げます。
報道によりますと、今回の事件は、業務上過失致死傷の被疑事実で現場検証されているようです。刑事責任の側面だけではなく、損害賠償請求という民事責任の側面も問題となりえます。
民事責任も刑事責任も、(1)法的責任を負う主体が負うべき注意義務の内容がどのようなものであるかを明らかにすることが前提となります。
そのうえで、注意義務違反があるというためには、(2)危険な結果の予見可能性があり、かつ危険な結果につき結果回避の可能性があったことが必要となります。
さらに、(3)義務違反と結果との間に相当因果関係があったことが必要となります。
以上を前提に、法的責任を負う主体について、検討してみます。なお、今回の事件の具体的事情がかならずしも明らかでありませんので、あくまでも可能性の話ということを断らせていただきます」
●学生たちの責任は?
「報道から得られる情報が、やや錯綜していますが、今回の作品には白熱球が使用されていたようです。
まず、そもそも学生たちには、可燃性の高いおがくずが電球の発する熱によって出火しないよう注意すべき義務があったといえます。しかし、学生たちは独自の判断で、LED電球から白熱球に変更したようです。白熱球はLED電球よりも周囲が高温になりやすいことがよく知られています。
当初はLED電球を使用することが決まっており、現場の判断で学生が白熱球を使用したとすれば、この熱によって、おがくずを照らせば出火するおそれがあります。おがくずから出火すれば、ジャングルジムは、可燃性の高いおがくずが絡みつくように飾られていたことから、火が容易に燃え広がり、その火がジャングルジムの内外にいる人々らの生命・身体・財産などに被害を生じさせる結果となることは十分に予見可能であったし、容易に回避できたはずです。
したがって、学生たちには注意義務違反が認められるといえます。
そして、学生たちの注意義務違反と被害との間に、相当因果関係が認められれば、学生たちは、民事上は損害賠償責任(民法709条、同710条)を、刑事上は業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を問われえます」
●大学側と主催者の責任は?
「大学側は、学生がLED電球ではなく白熱球を使用していたことを認識していなかったなどとコメントしているようですが、仮にそうであったとしても、大学としては学生たちの行動について指揮監督すべき関係はあったはずです。したがって、管理監督責任を負う場合がありえます。
その場合、大学は、民事上は使用者責任としての損害賠償責任(民法715条1項)を問われえます。他方、刑事上は業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を問われえますが、刑事上の管理監督過失は民事上のそれよりハードルは高いです。
主催者側も、観客の安全を確保すべき義務があると認められる場合もあるでしょう。この場合、民事上は主催者自身の責任としての損害賠償責任(民法709条、同710条)、または大学ないし学生たちに対する指揮監督関係が認められば、使用者責任(民法715条1項)を問われえることとなるでしょう。
ただし、刑事責任としては難しい点が多いです(明石市花火大会歩道橋事故事件参照)。
なお、刑事責任にはありませんが、民事責任においては、損害の公平な分担の見地から、過失相殺が認められています(民法722条2項)。被害者は5歳ということですので、ご本人に事理弁識能力はありませんが、ご両親などの被害者側の過失を考慮することはできます。
もし、主催者側で『事故等の一切の責任は一切負いません』などと告知していた場合でも、一般的には、合意の内容があいまいで、実際に発生した事故については免責の合意なしと認定される場合が多いと思います。場合によっては、公序良俗違反として無効とされることもあるでしょう」
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弁護士 濵門俊也
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