無線LANただ乗り事件についに判決!その結果は「無罪」!?
2017/04/28
こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。
他人の家の無線LANを勝手に使う「ただ乗り」を電波法違反の罪に問えるかどうかが争われた刑事裁判の判決において,東京地方裁判所は,平成29年4月27日,被告人が入手した無線LANの暗号化鍵(パスワード)について,電波法が無断使用を禁じる「無線通信の秘密」には該当せず,「ただ乗り」を無罪と判断しました。
無線LANの普及が急速に進む中,本件はただ乗りが検挙された初めてのケースであり,裁判所の判断に注目が集まっていました。
裁判所は,無線通信の秘密については「一般に知られていない通信の内容や存在」と定義し,そのうえで「暗号化鍵は通信の内容を知るための手段・方法にすぎない」としました。そして,「暗号化鍵が通信の内容を構成するとはいえず,他人の暗号化鍵を使っただけでは,罪にはならない」と結論付けました。
さらに,被告人は,ただ乗り無線LANを経由してフィッシングメールを送付しIDやパスワードを窃取して悪用していた行為に対し,ただ乗りに対する電波法違反に加え,不正アクセス禁止法違反,電子計算機使用詐欺罪に問われていました。判決においては,不正アクセス禁止法違反及び電子計算機使用詐欺罪については有罪とされた一方,電波法違反については無罪とされ,懲役8年(求刑懲役12年)が言い渡されたわけです。不正アクセス禁止法違反などについては異論はないと思われますが,電波法違反の無罪を意外と捉える人が多かったようで,ネット上でも疑問を呈する意見が多く見られます。
たしかに,暗号を解読して勝手に他人の家のネットワークに入り込んだにもかかわらず,そのこと自体は,「何らお咎めなし」というわけですから,何となく違和感があることは否めません。たとえば,もし合鍵を勝手に作って他人の家に入れば,たとえ家の中のものに何も手を付けずとも住居侵入罪に問われ得ます。これがネットワークなら許されるというのでは妙な話と思っても仕方ないでしょう。
●暗号通信を「復元」しなければ電波法違反に問うのは難しい
そもそも,無線LANの暗号鍵解読が違法かどうかについては,以前から論議がありました。
暗号鍵の解読について適用される可能性があるのは,電波法第109条の2です。
「暗号通信を傍受した者又は暗号通信を媒介する者であつて当該暗号通信を受信したものが,当該暗号通信の秘密を漏らし,又は窃用する目的で,その内容を復元したときは,一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」
ここでポイントとなるのは,「当該暗号通信の秘密を漏らし,又は窃用する目的で,その内容を復元」という部分です。もし暗号鍵を解読したうえ,そのアクセスポイントの持ち主など正規の使用者が行っていた暗号通信を傍受し,暗号鍵を使ってそれを復元して内容を他人に伝えたりすれば,上記条文に抵触することとなるでしょう。他人に伝えなくても,プライベートな情報を覗く目的だけであっても「窃用」といえると思われます。
しかし,単にただ乗りすることのみが目的であるとすれば,通信内容の解読は不要です。当然ながら,他人の通信を覗き見しなくてもアクセスポイントを経由してインターネットに接続するには何ら支障はありません。そもそも,暗号化方式がWEPにせよWPA/2にせよ,解読に必要なのは,ユーザーが実際に利用する情報ではなくシステム的なやり取りだけなのです。さらにWEPの場合なら何の暗号化もされていない部分の取得で解析できます。
すなわち,本件における被告人が,実際に通信を傍受して解読したと証明できなければ,無罪という判断も当然あり得るということとなります。
●法律は時代遅れ…。ただ,もはや喫緊の課題ではない。
暗号通信の秘密の漏洩・窃用を違法とした改正電波法が施行されたのは,平成16年のことです。その背景には,おそらくその数年前に話題となったコードレス電話の盗聴への対応であったと思われます(もちろん,時期的に無線LANも念頭に置かれていた可能性はあると思います)。しかし,コードレス電話の盗聴なら「通話内容を知る」という以外の目的はほぼないと思われますが,無線LANの場合は通信を傍受・復元して窃用すること以外の行為,例えば「通信内容に興味はなくただ接続する」という悪用もあり,このことは想定していなかったと思われます。
結局,本件は,法律が時代遅れであったために無罪とされたということとなります。ネット関連や新しい技術については法律が後追いになってしまうのはやむを得ないですが,無線LANについては長い間問題提起されていたのに放置されすぎていたという感は否めないところです。
もっとも,現在においてはもはや無線LANただ乗りへの対応自体が,さほど喫緊の課題という話ではなくなってしまったともいえます。といいますのは,無線のLANただ乗りは,要するに暗号化鍵を解析できるからこそ可能となるわけですが,現在販売されているほとんどの家庭用・法人用無線LAN機器は,デフォルトで解析が困難な設定となっているのです。WPA2 CCMPでパスワードが適切に設定されていれば,もはや解析はほぼ不可能といっていいという話もあります。
このまま判決が確定するのか上級審に持ち込まれるのかは現時点では不明です。
当職もユーザーの一人として,ただ乗りの被害に遭わず無線LANを安全に利用したいと思います。
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弁護士 濵門俊也
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