弁護士 濵門俊也
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性犯罪に関する刑法大改正!その概要を解説

性犯罪に関する刑法大改正!その概要を解説

2017/07/25

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

平成29年6月16日,性犯罪を厳罰化することを含む等の刑法改正案が参議院で可決・成立し,7月13日から施行されました。
性犯罪に関する刑法の改正はしばしばされていたのですが,今回のような大幅な改正は,明治40年(1907年)に刑法が制定されて以来,実に110年ぶりなのです。
性犯罪は被害者の人格を踏みにじる「魂の殺人」ともいわれる深刻な人権侵害行為であり,とりわけ女性に対する性犯罪は「女性に対する暴力の一つ」として,女性に対する暴力撤廃宣言(1993年12月,第48回国連総会で採択された宣言)などの国際文書で,根絶に向けた各国の努力が要請されてきました。
ところが,わが国では性犯罪が軽く扱われる傾向にあり,性犯罪に対するわが国の取り組みは著しく遅れていたといえます。
こうした中,たくさんの性犯罪被害者は泣き寝入りを余儀なくされてきた歴史があります。
近年,こうした性犯罪被害者の方々が声をあげはじめ,法務大臣が見直しの検討を指示,法務省における有識者を交えた検討のすえ,法案が上程され,成立したのです。
そこで,今回はその改正法の概要を説明いたします。

■ 改正その1――男性への被害も処罰されることに

まず,強姦罪の名称が「強制性交等罪」に変更されました。
これまで強姦の被害者は女性に限定されていたのですが,「強制性交等罪」の被害者には男性も含まれることとなりました。
これに関連して,それまで男性器の膣への挿入に限定されていた強姦罪の構成要件的行為を「性交等」(膣性交,肛門性交,口淫性交)にも広げました。

とくに注目したいのは,被害を男性に対する被害にも拡大したことです。
男性から男性,女性から男性に対する性犯罪・性虐待は,実際はこれまでもあったのですが,なかなか顕在化されませんでした。男性が被害者となること,被害者の保護や支援の必要性についても社会的な理解が十分であったとは到底いえませんでした。そのため,女性の被害者よりもさらに孤立した状況に置かれていました。 
当然ながら男性に対する性犯罪・性虐待も深刻な被害をもたらすものであり,強姦の客体に含まれないのは性による差別的取扱いともいえるべき問題を含んでいました。今回の改正により,男性に対する性交も処罰することとしたことは画期的といえます。処罰対象となる性交行為も拡大し,強制的な肛門性交,口淫性交も処罰対象に入れました。
もちろん,女性に対して,口淫性交を強要したようなケースも「強制性交等罪」に該当することとなり,女性の被害として処罰される範囲も広がりました。
同様に,飲酒や薬物の影響などで抵抗できない状況にある人に性行為等をする,いわゆる準強姦と言われた犯罪は,「準強制性交等罪」となり,処罰される行為も広がり,男性も対象となりました。
なお,これ以外に従来どおり,強制わいせつ罪は残っています。

■ 改正その2――刑の引上げ・厳罰化

つぎに,強姦罪改め,強制性交等罪の法定刑が引き上げられ厳罰化が図られました。
これまでは,強姦罪の法定刑の下限は「懲役3年」とされており(これでも引き上げられた経緯があります。),初犯の場合ですと実刑とはならず執行猶予が付くことがほとんど,という現状がありました。
しかし,加害者が執行猶予によって社会復帰を果たせるのに対し,被害者はPTSDや男性恐怖症,加害者への恐怖心に長く苦しむ例が少なくありません。被害者の視点からみれば,「魂の殺人」といっても過言ではないほど深刻な心の傷を被ることや被害の重大さに見合った刑罰とは到底いえません。実際,諸外国の例から見ても著しく軽いものでした。
そこで,今回の改正では,法定刑の下限を5年に引き上げる改正が実現したのです。
強制性交の過程でけがをしたり,死んでしまったという結果が出た場合は6年以上の刑となります。

■ 改正その3――「親告罪」規定の撤廃

第3は,「親告罪」規定の削除です。
これまで強姦罪等で起訴するためには被害者が「告訴」という手続をとることが必要でした(こうした犯罪を「親告罪」といいます)。
強姦罪等を親告罪とした趣旨は,性犯罪の被害者の意思とプライバシーを尊重するという点にありました。
しかし,「告訴」がない事例では犯罪の捜査が進みにくくなります(捜査機関もあまり熱心に取り組んでくれないこともままあります。)。
他方,一般人の被害者にとって「告訴状」等を準備して提出すること自体ハードルが高いことは,言うまでもありません(ちなみに,かつては,強姦罪等にも「告訴期間」があり,6か月間に告訴しないと,もう犯罪として立件してもらえないという法制度となっていました。平成12年改正によってようやくこれが撤廃されたのです。)。
そこで,強姦罪や強制わいせつ罪も,他の犯罪と同様に,「被害届」だけで捜査が進むことが求められてきたのです。
また,「告訴」が要件であることから,加害者側が「今告訴を取り消せば示談金を支払うが,告訴を取り消さなければ徹底して裁判で争う」などと強引に被害者にアプローチをして動揺させた結果,被害者が精神的に参ってしまい告訴を取り消してしまうような事例もあったようです。
このように,強姦罪等が「親告罪」であったことが,本来の趣旨とは裏腹に,性犯罪の不処罰につながる役割を果たす結果となってきた面があるのです。
そして,よく考えてみると,たとえ親告罪でなくなったとしても,被害者が協力しない場合に無理やり立件・起訴することはそもそも不可能なはずです。こうしたことを考えると,どうしても親告罪としなければならない理由はないと考えられます。 
こうした背景もあって親告罪とすることはしないこととなりました。親告罪の規定は強姦罪のほか,強制わいせつ罪などでも撤廃され,施行前に起きた事件にも原則適用していくこととなりました。

■ 改正その4――支配的な地位を利用した性行為は暴行・脅迫がなくても処罰する。

第4は,親などの「監護者」が,支配的な立場を利用して18歳未満の子どもと性交したり,わいせつ行為を行った場合,暴行や脅迫がなくても強姦罪等が成立する,とした点です。
強姦罪等の成立には,被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫が要件とされていますが,子どもに対する性的虐待のケースでは,その多くが,子どもに対する支配的な影響力を利用して,子どもが抵抗できないままに行われていることが多いのが実情です。
13歳未満に対する性交は必ず強姦とされますが,これまでは,13歳以上で親族等に暴行等をともなわずに性虐待された場合は強姦罪等に問われないこととなっていました。
しかし,それでは,多くの性虐待事例が強姦罪等に問われず,不処罰を許すことになってしまいます。
そこで,性虐待被害者の方々の意見を受けて,暴行・脅迫要件が撤廃されました。

■ 3年後の見直し――さらなる議論の深化を

今回の刑法改正では被害者の声も受けて3年後に規定の見直しがされることとなりました。暴行・脅迫要件を見直し,被害者の意に反する性行為を広く処罰していくことが国会できちんと議論されることが期待されています。 それと同時に,立法任せにせず,望まぬ性行為の被害をなくすために,社会的にも,とりわけ職場や学校でも議論が深められるとよいと思います。

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弁護士 濵門俊也
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