弁護士 濵門俊也
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戦争とは相手国の憲法を書きかえるものであるというリアル

戦争とは相手国の憲法を書きかえるものであるというリアル

2017/08/15

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

今日8月15日は日本の一番長い日「終戦記念日」です。「終戦」といいますが,実際は「敗戦」です。敗戦後,わが国は「日本国憲法」を制定(手続的には「大日本帝国憲法」を改正)しましたが,戦後70年を超えその価値は広くわが国で受け入れられています。

この「日本国憲法」については,「日本国憲法はアメリカから押し付けられたものである」という議論があります。果たしてそのような議論はあり得るのでしょうか。
この点について,平成22年(2010年)に小林秀雄賞を受賞された加藤陽子著『それでも,日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫)という本のなかに,興味深いお話が載っています。それは,18世紀の思想家・ルソーが20世紀の戦争における戦後処理がどうなるかということを見通していたというお話です(文庫版p49以下)。

 

加藤先生は,長谷部恭男著『憲法とは何か』(岩波新書)を引用され,ルソーの「戦争および戦争状態論」という論文にある「戦争は国家と国家との関係において,主権や社会契約に対する攻撃,つまり,敵対する国家の憲法に対する攻撃,というかたちをとる」との言葉を紹介されています。

【文庫版p50~p52を引用始め】
ルソーは考えます。戦争というのは,ある国の常備兵が三割くらい殺傷された時点で都合よく終わってくれるものではない。また,相手国の王様が降参しましたと言って手を挙げたときに終わるものでもない。戦争の最終的な目的というは,相手国の土地を奪ったり(もちろんそれもありますが),相手国の兵隊を自らの軍隊に編入したり(もちろんそれもありますが),そういう次元のレベルのものではないのではないか。ルソーは頭のなかでこうした一般化を進めます。相手国が最も大切だと思っている社会の基本秩序(これを広い意味で憲法と呼んでいるのです),これに変容を迫るものこそが戦争だ,といったのです。
相手国の社会の基本を成り立たせる秩序=憲法にまで手を突っ込んで,それを書きかえるのが戦争だ,と。とても簡単にいってしまえば,倒すべき相手が最も大切だと思っているものに根本的な打撃を与えられれば,相手に与えるダメージは,とても大きなものになりますね。こう考えれば,ルソーの真理もストンと胸に落ちます。第二次世界大戦の,無条件降伏を要求する型の戦争を,何故か十八世紀の人間であるルソーが見抜いている。本当に不思議なことです。
第二次世界大戦の終結にあたっては,敗北したドイツや日本などの「憲法」=一番大切にしてきた基本的な社会秩序が,英米流の議会制民主主義の方向に書きかえられることになりました。ですから,歴史における数の問題,戦争の目的というところから考えますと,日本国憲法というものは,別に,アメリカが理想主義に燃えていたからつくってしまったというレベルのものではない。結局,どの国が勝利者としてやってきても,第二次世界大戦の後には,勝利した国が敗れた国の憲法を書きかえるという事態が起こっただろうと思われるのです。
【以上,引用終わり】

いかがでしょうか。当職は初めて上記文章に出遭った時唸りました。まさに目から鱗が落ちる状態でした。ルソーの戦争定義からすると,近現代では戦争に負けたら憲法を変えられてしまうことは当然のことであり,歴史的必然であるということとなります。国家にはそれぞれの「正義」があり,政治の続きの先に戦争があるわけですが,戦争に敗れてしまえば,結果として憲法を書きかえられてしまうわけです。
そのように考えますと,押し付けかどうかといった議論は不毛であるといわざるを得ません。問題はその中身のようです。

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弁護士 濵門俊也
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