名言シリーズ・「破ったら血が出るような判決を書け」(by伊達秋雄裁判官)
2019/02/06
こんにちは。日本橋人形町の弁護士・濵門俊也(はまかど・としや)です。
先日,当事務所の同僚弁護士から「濵門さんの記事が岡口基一裁判官にツイートされているよ」と教えてもらいました。そこで,岡口基一裁判官のTwitterを見ますと,平野龍一博士の「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である」との言葉を引用されておりました。少しうれしくなりました。
上記平野博士の言葉は「名言シリーズ」と銘打ち,皆さまに広く知ってもらいたいとの思いから書かせていただきました。当職が司法試験受験生の時代には,「はしがき」や「まえがき」に心を熱くする基本書が数多くありました。今回は,「名言シリーズ」の復活版となります。
「破ったら血が出るような判決を書け」という言葉は,砂川事件第一審判決であるいわゆる「伊達判決」で著名な伊達秋雄裁判官(以下「伊達裁判官」といいます。)の言葉です。松本一郎先生の著作である『事例式演習教室 刑事訴訟法』(初版第1刷1987年12月10日,勁草書房)のまえがき「刑事裁判は絶望的か―まえがきに代えて―」でも紹介されている言葉です(この松本先生のまえがきは,かなり熱いです。一読されることをお勧めします。)。
いわゆる砂川事件とは,1957年(昭和32年)にアメリカ軍の立川基地拡張に対する反対運動の過程で起きた事件をいいます。 57年7月8日,当時の東京都北多摩郡砂川町(現在の立川市。東京地方裁判所立川支部に向かうバスに乗るたびに思い出す砂川事件です。)において,基地を拡張するための測量に反対するデモ隊の一部が立入禁止の境界柵を破壊して基地内に侵入し,7名が「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法」違反として起訴されました。
この事件は直接的には一刑事事件にすぎないのですが,前提問題として旧日米安全保障条約の合憲性が法廷で争われた初めてのケースです。
1959年(昭和34年)3月 30日,東京地方裁判所は,日本に指揮権のない軍隊であっても,わが国が外部からの武力攻撃に対する自衛に使用する目的で合衆国軍隊の駐留を許容することは,日本国憲法第9条2項前段の禁止する陸海空軍,その他の戦力に該当すると述べたうえ,日米安全保障条約を違憲とし,被告人らを無罪とする判決を下しました (下級刑集1巻3号 776頁) 。これがいわゆる「伊達判決」と呼ばれるものです(前述の松本先生も左陪席で,「伊達判決」に関わっています。)。
驚いた検察側は,この判決に対し,最高裁判所に跳躍上告をしました。最高裁判所大法廷は,同年 12月 16日,9条2項がその保持を禁止した戦力とは,日本がその主体となってこれに指揮権,管理権を行使し得る戦力であって,合衆国軍隊の駐留はこれに当たらないことなどを理由に,原判決を破棄し,東京地裁に差し戻しました。その後,この事件は差戻し第1審で有罪の判決があり,同第2審で控訴棄却となり,確定したという経緯があります。
昨年(2018年・平成30年)7月18日,砂川事件の再審請求事件について,最高裁第二小法廷が,平成29年(2017年)11月15日の東京高裁即時抗告棄却決定に対する再審請求人の特別抗告を棄却する決定を下し,再審請求を認めなかったことは記憶に新しいところです。
砂川事件判決から,本年は60周年。「破ったら血が出るような判決を書け」との覚悟をもって刑事裁判に関わっている裁判官,検察官,弁護人ばかりですといいですね(少なくとも当職はそうありたいと思っています。)。
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弁護士 濵門俊也
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