弁護士 濵門俊也
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養育費の支払給付を定めた家事調停調書に基づき,強制執行を行う場合,執行文の付与は必要か?

養育費の支払給付を定めた家事調停調書に基づき,強制執行を行う場合,執行文の付与は必要か?

2021/04/21

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかどとしや)です。

【問題】

養育費の支払給付を定めた家事調停調書に基づき,強制執行を行う場合,執行文の付与は必要か。

【回答】

不要である。
したがって,この場合,執行文付与を受けずに,調停調書に基づき強制執行を申し立てることが可能である。

まぁ,一般の相談者に対する回答としてはこれでもよいですが,やはり解説をしなければなりませんよね。「手を抜かない」,「惜しみない」というのが,かつて,亡き妻に言われた当職の長所ですので,以下解説いたします。

【解説】

裁判所により強制執行を行う場合には,債務名義が必要です。
債務名義は,民事執行法22条に列挙されています。例えば,「確定判決」(同条1号)や「仮執行の宣言を付した判決」(同条2号)が債務名義として,ここに規定されています。債務名義がなければ,強制執行を行うことはできません。

そして,一般的には,債務名義には,執行文の付与がなされていることが必要です(民事執行法26条)。

しかし,例外的に,執行文の付与が不要の場合があります。
この例外として,たとえば,養育費の支払給付を認めた家事調停調書に基づき強制執行を行う場合があります。
言い換えますと,家事事件手続法「別表第二」の事件です。「別表第二」の事件には,養育費の給付を求める家事調停事件以外にも,「扶養の程度又は方法についての決定」,「婚姻費用の分担」,「財産の分与」に関する処分,「遺産の分割」等々があります。

上記の場合に執行文付与が不要なことはそのとおりなのですが,その結論を導くための法文の読み解きが,結構複雑で面倒なのです。

まず,養育費の支払を求める家事調停の申立ては,家事事件手続法「別表第二」の3項「子の監護に関する処分」(民法766条2項及び3項等)に該当します。

つぎに,家事事件手続法268条1項は,「調停において当事者間に合意が成立し,これを調書に記載したときは,調停が成立したものとし,その記載は,確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては,確定した第39条の規定による審判)と同一の効力を有する。」と規定しています。

上記のとおり養育費の支払給付を定めた家事調停調書は,上記括弧書き内の「別表第二に掲げる事項」を定めたものとなりますので,上記268条1項により,「確定した第39条の規定による審判」と同一の効力を有することになります。

この点に関し,家事事件手続法39条は,「家庭裁判所は,この編に定めるところにより,別表第一及び別表第二に掲げる事項並びに同編に定める事項について,審判をする。」と規定しています。
そして,その審判(裁判所が決定により下した判断)について,家事事件手続法75条は,「金銭の支払,物の引渡し,登記名義の履行その他の給付を命ずる審判は,執行力のある債務名義と同一の効力を有する。」と規定しています。
ここにいう「執行力のある債務名義と同一の効力を有する」の解釈として,執行文は不要であると解されているというわけです。

よって,養育費の給付条項の記載のある調停調書に基づき,強制執行を行う場合には,執行文の付与は必要ないという結論となります。

ただ,家事調停調書に記載された給付条項であっても,「別表第二」に該当しない事項については,執行文が必要となる点には,注意が必要です。例えば,和解金,解決金,慰謝料のようなものがそれに該当します。

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