刑法190条の「遺棄」概念(令和5年3月24日最高裁判決)
2023/03/24
技能実習生だったベトナム人の女性が死産した双子の遺体を遺棄した罪(死体遺棄罪)に問われた裁判で、令和5年3月24日、最高裁は、第2審の有罪判決を破棄し、無罪の判決を言い渡しました。
- 自らの申告により事件発覚
熊本県葦北郡芦北町(あしきたまち)で技能実習生だったベトナム人の女性(24歳)は、令和2年11月15日頃、実習先の寮で死産した双子の遺体を遺棄した罪に問われました。
女性は、自分が妊娠したことを周囲の者に言わず、医師の診察を受けませんでした。死産の翌日(16日)に病院を受診し、赤ちゃんの形をしたものを産んで埋めた旨話したため、同月17日、寮の捜索が行われ、双子の死体が発見されました。
- 女性の行為が「遺棄」に当たるか?
本件の争点は、死体をタオルに包んで段ボール箱に入れ、同段ボール箱を棚の上に置くなどした女性の行為が、刑法190条の「遺棄」に当たるかどうかという点です。
この点、第1審の熊本地裁は、「死体を段ボール箱に入れた上、自室に置き続けた」行為は、「遺棄」に当たると判示し、女性に対し、懲役8月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。
女性側が控訴したところ、第2審の福岡高裁は、段ボール箱に入った状態の本件死体を自室に置き続けた行為は不作為による「遺棄」に当たらない旨判示しました。
その上で、「他者がそれらの死体を発見することが困難な状況を作出した」行為は「遺棄」に当たる旨判示し、懲役3月、執行猶予2年の有罪判決を言い渡しました。
- 最高裁で逆転無罪
この判決を不服として女性側は上告していて、最高裁は令和5年3月24日、第2審の有罪判決を破棄し、自判して無罪の判決を言い渡しました。
最高裁は、判決書の中で、刑法190条の保護法益を引き合いに出し、死体遺棄罪の「遺棄」について「習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為」と定義しました。
その上で、「他者が死体を発見することが困難な状況を作出する隠匿行為が『遺棄』に当たるか否かを判断するに当たっては、それが葬祭の準備又はその一過程として行われたものか否かという観点から検討しただけでは足りず、その態様自体が習俗上の埋葬等と相いれない処置といえるものか否かという観点から検討する必要がある」と判示しています。
これらを前提に検討した結果、上記女性の行為は「死体を隠匿し、他者が死体を発見することが困難な状況を作出したものであるが、それが行われた場所、死体のこん包及び設置の方法等に照らすと、その態様自体がいまだ習俗上の埋葬等と相いれない処置とは認められないから、刑法190条にいう『遺棄』には当たらない」と判断しました。その上で、「既に検察官による立証が尽くされている」ことから、自ら無罪判決を下したというわけです。
上記最高裁判決は、医療的なケア等もなく母親が一人で出産する、孤立出産に追い込まれた女性に配慮し、刑法190条の「遺棄」概念を限定的に解釈した妥当なものだと思います。
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弁護士 濵門俊也
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