民法第724条後段とは?ーカネミ油症事件最高裁決定に思う(下)
2015/06/03
3 損害賠償請求権の保存
⑴ 売主の瑕疵担保責任を問うものとしての損害賠償請求権に関し,民法第570条,同第566条第3項の1年の行使期間について,最三小判平成4年10月20日民集46巻7号1129頁(以下「平成4年判決」といいます。)は,これを除斥期間と解したうえ,損害賠償請求権を保存するためには,必ずしも訴えの提起までは要しないとしつつ,「売主に対し,具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し,請求する損害額の算定の根拠を示すなどして,売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある」旨判示しています。
⑵ この平成4年判決は,1年という短期の除斥期間について判示したものではありますが,民法第724条後段の20年の除斥期間についても同判決の判旨にしたがって検討されるべきでしょう。
4 除斥期間の適用制限・排除
⑴ 正義・公平の理念等を理由に除斥期間の適用を制限したり,排除したりすることができないのでしょうか。カネミ油症事件でもそのような主張がなされました。
⑵ 民法第724条後段の除斥期間は,不法行為に基づく損害賠償請求権の存続期間を定めたものであり,不法行為に基づく損害賠償請求権は,権利そのものの性質として,当初から20年に限って存続するものとして成立するものですから,成立後の諸事情によって,存続期間が変動することは予定されていないものと解され,本来,民法第724条後段の除斥期間の適用が排除されるということはあり得ないものです。
現に,最高裁判例上,民法第724条後段の除斥期間の適用が,正義・公平の理念のみを理由として,全面的に排除された例は皆無です。
⑶ 民法第724条後段の除斥期間の適用制限を認めた最高裁判例としては,2例ありますが,いずれも,加害者の行為そのものによって,被害者の権利行使が著しく困難ならしめられたものであり,除斥期間の適用が著しく正義・公平に反することが明白でした。その意味において,上記2例は,時効の停止の法意に照らして除斥期間の適用を制限した,いわば「限界事例」というべきものです。
5 今回の最高裁決定
原告らとなった方々は,長崎,広島など10府県に居住されており,大半は平成16年,カネミ油症の診断基準に原因物質とされる毒性の強いダイオキシン類の血中濃度が追加されて以降,新たに患者と認定された方々でした。提訴に至ったのは,平成20年以降となってしまいました。
第一審福岡地裁小倉支部は,「カネミ倉庫の不用意な設備改造の結果,製造する米ぬか油に有毒物質が混入した」と指摘し,同社の賠償責任を認定したうえで,民法第724条後段を適用しました。第二審の福岡高裁も第一審を支持し,今回の最高裁決定も上告を棄却しました。
今回の最高裁決定の内容自体は,法律解釈論としては従前の判断を踏襲したものであり,何ら新しいものではありません。しかし,事案の解決としては,法律解釈の限界を感じてしまう,何とも後味の悪いものとなりました。
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弁護士 濵門俊也
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