弁護士 濵門俊也
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砂川事件最高裁判決・田中耕太郎最高裁長官の補足意見を読む ①

砂川事件最高裁判決・田中耕太郎最高裁長官の補足意見を読む ①

2015/06/17

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 

政府与党が論拠とする砂川事件最高裁判決ですが,事件の背景事情,事件処理の経緯や米国からの介入・圧力,米国との密約があったこと等を考慮しますと,いわゆる「眉唾もの」,「いわくつき」判決であるとの謗りを免れないことは否定できません。

ただ,集団的自衛権行使容認の論拠となるかどうかは別として,上記判決多数意見の判旨自体の文言のみに着目すると,苦しいところは多いですが,まったく論外という印象ではなく,意外と面白いことが分かります。

また,注目度は低いですが,田中耕太郎最高裁判所長官(以下「田中長官」といいます。)の補足意見は,実に興味深いです(ちなみに,最高裁判所判事の意見と長官の意見との間に軽重はありません。一人一意見です。)。

そこで,本ブログの読者(どのくらいの人が閲覧しているかは不明ですが)への情報提供のため,田中長官補足意見をご紹介いたします。認識しないで評価することは絶対に戒めなければなりません。読者の方々の思考の参考となれば幸いです。

なお,田中長官補足意見のうち,日本国憲法の国際協調主義の観点から補足されている部分に限定します。また,引用の際,横書きであることを考慮し,適宜修正(字句の修正や改行など)させていただきました。

 

【田中長官補足意見・引用始まり】

 

「私は本判決理由をわが憲法の国際協調主義の観点から若干補足する意味において,以下自分の見解を述べることとする。」

【コメント】

「国際協調主義」(国際協和主義ともいわれます。)は説明するまでもないと思います。日本国憲法前文や同第98条第2項に規定されています。

 

 

「およそ国家がその存立のために自衛権をもっていることは,一般に承認されているところである。自衛は国家の最も本源的な任務と機能の一つである。

しからば自衛の目的を効果的に達成するために,如何なる方策を講ずべきであろうか。

その方策として国家は自国の防衛力の充実を期する以外に,例えば国際連合のような国際的組織体による安全保障,さらに友好諸国との安全保障のための条約の締結等が考え得られる。そして防衛力の規模および充実の程度やいかなる方策を選ぶべきかの判断は,これ一つにその時々の世界情勢その他の事情を考慮に入れた,政府の裁量にかかる純然たる政治的性質の問題である。

法的に認め得ることは,国家が国民に対する義務として自衛のために何等かの必要適切な措置を講じ得,かつ講じなければならないという大原則だけである。」

【コメント】

「国際連合のような国際的組織体による安全保障」は集団安全保障といわれます。国際連合(以下「国連」といいます。)発足当初は,五大国[米,英,仏,ソ(当時。現露),中(当時は中華民国。現在は中華人民共和国)]の軍事力を背景として第二次世界大戦後の世界平和を保障しようと考えていました。

しかし,国連による集団安全保障体制が機能不全を起こしていることはご存じのとおりです。

そのため,予防外交と平和維持活動(PKO)を展開するなど,集団安全保障本来の機能とは異なる活動を追加することで対応せざるを得ない状況となっています(ちなみにアニメーション「宇宙戦艦ヤマト2199」の劇中においては,「国連宇宙軍」が創設されており,日本も参加していることとなっています。ただ,これまでの政府閣議決定はもちろん,昨年7月1日の閣議決定を前提としても,国連軍が創設された場合,我が国はそれに参加することができないこととなっています。)。

 

 

「さらに一国の自衛は国際社会における道義的義務でもある。今や諸国民の間の相互連帯の関係は,一国民の危急存亡が必然的に他の諸国民のそれに直接に影響を及ぼす程度に拡大深化されている。従って一国の自衛も個別的にすなわちその国のみの立場から考察すべきでない。一国が侵略に対して自国を守ることは,同時に他国を守ることになり,他国の防衛に協力することは自国を守る所以でもある。換言すれば,今日はもはや厳格な意味での自衛の観念は存在せず,自衛はすなわち『他衛』,他衛はすなわち自衛という関係があるのみである。従って自国の防衛にしろ,他国の防衛への協力にしろ,各国はこれについて義務を負担しているものと認められるのである。」

【コメント】

この箇所は,政府与党の論拠とされそうな部分です。たしかに,砂川事件の争点は,「日米安全保障条約の合憲性」であり,集団的自衛権行使の可否等は争点とはなっていません。

しかし,評議の際,国連憲章第7章第51条の規定は十分意識されていたのではないでしょうか。

 

参考[国連憲章第7章第51条]

「この憲章のいかなる規定も,国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には,安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間,個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は,直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また,この措置は,安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては,いかなる影響も及ぼすものではない。」

上記意見にある「今日」とは砂川事件最高裁判決が下された1959年(昭和34年)当時のことですが,当時は東西冷戦下でした。「今日はもはや厳格な意味での自衛の観念は存在せず,自衛はすなわち『他衛』,他衛はすなわち自衛という関係があるのみである」とありますが,これについては見解が分かれそうです。

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