砂川事件最高裁判決・田中耕太郎最高裁長官の補足意見を読む ②
2015/06/17
こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。
前回にひきつづき,田中長官補足意見を引用します。
「およそ国内的問題として,各人が急迫不正の侵害に対し自他の権利を防衛することは,いわゆる『権利のための戦い』であり正義の要請といい得られる。これは法秩序全体を守ることを意味する。このことは国際関係においても同様である。防衛の義務はとくに条約をまって生ずるものではなく,また履行を強制し得る性質のものでもない。
しかしこれは諸国民の間に存在する相互依存,連帯関係の基礎である自然的,世界的な道徳秩序すなわち国際協同体の理念から生ずるものである。このことは憲法前文の国際協調主義の精神からも認め得られる。そして政府がこの精神に副うような措置を講ずることも,政府がその責任を以てする政治的な裁量行為の範囲に属するのである。」
【コメント】
国家の防衛権が発動されるべき状況,防衛の義務の性質・根拠,防衛権行使の措置が政府の政治的裁量行為の範囲に含まれることに言及しています。正当防衛に関する刑法第36条第1項は,「急迫不正の侵害に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為は,罰しない。」と規定しています。また,民法第720条第1項本文は,「他人の不法行為に対し,自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため,やむを得ず加害行為をした者は,損害賠償の責任を負わない。」と規定しています。すなわち,刑法上も民法上も,自己又は他人の権利の防衛のために,正当防衛権を行使できるのです。
前段で言及されているとおり,田中長官補足意見は,防衛の概念について,「自衛即他衛,他衛即自衛」との論理を前提としていますから,刑法上及び民法上の正当防衛のロジックが使えるわけです。
「本件において問題となっている日米両国間の安全保障条約も,かような立場からしてのみ理解できる。本条約の趣旨は憲法9条の平和主義的精神と相容れないものということはできない。同条の精神は要するに侵略戦争の禁止に存する。それは外部からの侵略の事実によって,わが国の意思とは無関係に当然戦争状態が生じた場合に,止むを得ず防衛の途に出ることおよびそれに備えるために必要有効な方途を講じておくことを禁止したものではない。」
【コメント】
日本国憲法第9条の精神が「平和主義的精神」,「侵略戦争の禁止」であることが述べられております。
「いわゆる正当原因による戦争,一国の死活にかかわる,その生命権をおびやかされる場合の正当防衛の性質を有する戦争の合法性は,古来一般的に承認されているところである。そして日米安全保障条約の締結の意図が,『力の空白状態』によつてわが国に対する侵略を誘発しないようにするための日本の防衛の必要および,世界全体の平和と不可分である極東の平和と安全の維持の必要に出たものである以上,この条約の結果としてアメリカ合衆国軍隊が国内に駐留しても,同条の規定に反するものとはいえない。
従ってその『駐留』が同条2項の戦力の『保持』の概念にふくまれるかどうかは―我々はふくまれないと解する―むしろ本質に関係のない事柄に属するのである。
もし原判決の論理を是認するならば,アメリカ合衆国軍隊がわが国内に駐留しないで国外に待機している場合でも,戦力の『保持』となり,これを認めるような条約を同様に違憲であるといわざるを得なくなるであろう。」
【コメント】
「もし」以下の展開は,当職にはやや意味不明です。原判決は「駐留」が日本国憲法第9条第2項の「保持」の概念に含まれる(だからこそ違憲なわけです。)と判示していますが,まさか「駐留」していない軍隊を「保持」しているとまでは言っていないように思います。
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