弁護士 濵門俊也
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アンゴラ反政府勢力の指導者の遺族がゲーム会社を提訴 法的な問題は?

アンゴラ反政府勢力の指導者の遺族がゲーム会社を提訴 法的な問題は?

2016/03/22

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 先日平成28年3月18日,当職が取材協力をさせていただいた記事が掲載されました。

 アンゴラ反政府勢力の指導者の遺族がゲーム会社を提訴 法的な問題は?

 

【以下,記事引用始め】

 アンゴラ反政府勢力「アンゴラ全面独立民族同盟 (UNITA)」の指導者、故ジョナス・サヴィンビ氏の遺族が、サヴィンビを「野蛮な人物として描いた」として、海外の人気ゲームソフト「コールオブデューティブラックオプス 2(COD:BO2)」の発売元であるフランスの会社を名誉毀損などで訴えました。こうした死者を描く際、法的に問題となるのでしょうか? 日本の法律に当てはめて考えてみましょう。

問題のゲームはどんな内容?

 COD:BO2は、冷戦時代(1980年代)と近未来(2025年)の二つの時代を舞台に、レアアースをめぐる各国の対立やサイバーテロに関するストーリーが展開される戦闘シミュレーションゲームです。主人公は架空の人物ですが、登場人物の一部には実在した人物も描かれています。その一人が今回取り上げるジョナス・サヴィンビです。彼は30年以上続いたアンゴラ内戦の当事者で、反政府組織の指導者として活動し、2002年に戦闘中に亡くなっています。

 報道によると、ゲーム上でサヴィンビは、武器を振り回して反乱軍を率い、「 (敵対する) アンゴラ解放人民運動に死を!!」と叫ぶ姿が描かれているそうです。遺族側の弁護士は、「UNITA の指導者は喜んで殺戮をする大マヌケな野蛮人として描かれている」として批判し、慰謝料を求めて提訴しました。

日本の法律に当てはめると?

 まず考えられるのが、今回の訴えにもありました名誉毀損罪です。刑法第230条第2項では「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない」と定められています。つまり、死者にも名誉毀損罪は適用されるのです。名誉毀損とは、その人の社会的評価を低下させる事実を示す行為を指します。例えば「あの人は殺人者だ」というような噂を流し、これによって社会的評価が低下すると認められる場合は名誉を毀損することになります。

 では、なぜこのように「社会的評価の低下」を名誉毀損とするのでしょうか。東京新生法律事務所の浜門俊也弁護士は、保護法益の観点からだと指摘します。「死者の名誉毀損罪について、法律上何を保護するのかというと、『遺族の名誉』や『死者に対する遺族の敬愛の情』を保護するという見解もあります。しかし、通説は『死者個人の名誉』を保護すると解しています」と話し、死者のイメージ低下を防ぐことが目的だとしました。

 続けて、「死者の社会的評価の低下ですが、そのおそれ、つまり危険性があれば適用されます。一般的な感覚として低下に値するかどうかがポイントとなります(浜門弁護士)」と説明し、実際に社会的評価が下がったという事実まで求められていないことも付け加えました。

どんな場合に名誉毀損になる?

 このことから、死者への名誉毀損罪が成立するのは次のような場合になります。死者に対する嘘(虚偽)の情報(事実)を不特定多数に流布し、その死者のイメージ(社会的評価)を損なった場合、もしくは損なう危険性があった場合が、その嘘の情報を流した人を処罰することができるのです。また、「ある程度、その死者の社会的評価が定まってしまうと、その後に多少の新事実が分かっても評価は変わらない可能性が高い(浜門弁護士)」ので、社会的評価が固まっていない、亡くなって間もない方の虚偽の事実を流すことで、名誉毀損罪になることが多いようです。

歴史上の人物の場合はどうなる?

 これが歴史上の人物の場合だとどうなるのでしょうか?例えば、織田信長の子孫が、「ここまでひどい残虐性はなかった」などと、名誉毀損罪で訴えられるのでしょうか。浜門弁護士は、「いわゆる教科書に載っているような歴史上の人物であれば、本当にそういう性格だったのか、またはそのような行為をしていたかは今となっては分かりません。さらに、歴史上の人物であれば、既に社会的評価が定まっており、評価が下がることは考えにくいです」と名誉毀損罪に問うことは難しいとしました。

名誉毀損のほかにあり得るのは?

 名誉毀損罪以外では、何か法的責任に問われるのでしょうか?浜門弁護士は、民事上の責任として肖像権やパブリシティ権の侵害の可能性を挙げます。肖像権とは、自己の姿などをみだりに写真や絵画、彫刻などにされない権利です。また、パブリシティ権は、その人に備わっている、顧客吸引力を中核とする経済的な価値を保護する権利です。「広く人格権と言われているものです。それを侵害するような形での扱い方は駄目ですよね。亡くなったからと言って、直ちに権利がなくなるわけではありません。遺族が訴訟等の申し立てをすることはあり得ます(浜門弁護士)」と述べ、死者を勝手に描くことの危険性を指摘します。

 死者となれば人権はなくなりますが、だからといって、どのように死者を描いてもいいというわけではないようです。ゲームや小説などで実在の人物を描く場合は、いろいろと注意する点が多いようです。

(ライター・重野真)

【以下,引用終わり】

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