弁護士 濵門俊也
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刑事法の巨人・石丸俊彦先生を偲んで

刑事法の巨人・石丸俊彦先生を偲んで

2016/08/16

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 8月13日(迎え盆)から本日8月16日(送り盆)までの4日間のお盆は「月遅れ」のお盆です。東京など関東圏の一部では7月15日を中心に行われる場合もあるようですが、当職の故郷である熊本をはじめ、夏休みにあわせた月遅れお盆が一般化していると思います。今年は4月14日に熊本地震が発生していますから、被災して亡くなられた方々も含めて追善回向をさせていただきました。
 お盆は日本古来の祖霊信仰と仏教が融合した行事ですが、当職が司法試験受験をしていた際、大変お世話になったクリスチャンの師匠がいました。その師匠の名は、「石丸俊彦先生」(以下「石丸先生」といいます。)です。
 今回は、石丸先生を偲んでブログを書きたいと思います。

●石丸先生と当職との出会い

 石丸先生(1924年6月28日―2007年4月1日)は、裁判官であり、日本の法学者でもあります。専門は刑事法です(石丸先生の著作は、現在も刑事実務に多大な影響を与えています。石丸先生の著作『刑事訴訟法』は家宝といえましょう。)。元東京高裁総括判事も歴任され、退官後は、元早稲田大学法学部客員教授を務められました。

 石丸先生との出会いは、早稲田大学法職課程の『刑法総合』でした。『刑法総合』は、B4の紙にびっしりと書かれた事実から複数の共犯者の罪責を問う問題が出題されます。制限時間内に基本書等のいかなるものも参照してよい(もっとも、参照している暇はありません。)こととされ、答案用紙も制限がない(当職は平均して6~7頁書いていました。)異色の答練でした。「28点」以上が合格点であり、成績優秀者については、名前とともに出身大学を紹介していただける栄誉が与えられました。
 当職が平成10年に受験した論文式試験刑法第1問で失敗した際、当職の友人(東海地方で弁護士をしています。)に紹介されて石丸先生の門を叩きました。短答式試験である「択一」(たくいつ)のことを「たくいち」と言ったり、「Suika」(スイカ)のことを「シューカ」と言うなど、お茶目な部分もありましたが、『刑法総合』に臨まれる真剣な姿勢には唸りました。当職も全身全霊をかけて問題と格闘したことを覚えています(おかげで、名前と顔を覚えていただきました。また、同じ九州人であることも事あるごとに触れていただきました。)。
 その後、何とか平成16年に司法試験に合格させていただいた(ネットの世界では『ヴェテ』と呼ばれる人種です。)のですが、ご報告した際は、大変喜んでいただきました。師匠にお応えできることは弟子の誉です。

●法律家として、クリスチャンとして

 昨日は終戦(敗戦)の日でしたが、石丸先生がもの心ついたころ、すでに我が国は戦争への道をひた走っていました。石丸先生もまた、この戦争が「聖戦」であると固く信じる少年でした。
 終戦(敗戦)後、石丸先生は裁判官となられます。1970年代後半には、東京地方裁判所裁判長として、連合赤軍事件の審理に深く関わりました。とくに連合赤軍のひとりへの判決は、「石丸判決」として、その後の関連裁判で繰り返し参照されることになりました。
 この判決において、石丸先生は検察側の死刑求刑を退け無期懲役を言い渡し、さらに判決後、この被告人男性に異例の訓戒の言葉をかけたのです。
 「裁判所は被告人を法の名において生命を奪うようなことはしない。被告人自らその生命を絶つことも、神の与えた生命であるから許さない。被告人は生き続けて、その全存在をかけて罪をつぐなってほしい」。石丸先生の信仰に裏打ちされた言葉が、被告人男性とその関係者に深い印象を残したことは言うまでもないでしょう。

●質の良い法曹へ

 最後にかつて石丸先生が寄稿された記事を引用して終わりたいと思います。この記事を読むたびに勇気が湧きます。
【以下、記事引用始め】

 私は早大の法職課程教室で教えているが、ここにも人生の転換組が実に多い。皆働きながら、真摯に勉強を続けている。この人達が最終合格して修習生になると、雌伏から雄飛になって、法曹としての人生の豊かさがにじみ出て輝きを増してくる。実務につくと味のある、そして社会通念を的確に把握できる法曹に成長する。昨年私の刑法総合のクラスから60名が合格したが、この中にも人生転換組が多くいた。実務法曹は片々たる法律知識よりは、社会における他事多様な事実とそれに対する的確な評価と判断を必須の力とする。人生の転換・挫折を味わった人は、それだけの人生の暗さを味わってはい上ってきているから、人の弱さ、暗さが理解できる。私は法曹の資格としては、エリートで輝ける尾根づたいで合格して若くして法曹になるよりは、一度社会の泥沼に飛び込んで人生の荒波にもまれてそこから抜け出した人達のほうが社会の役に立つのではないかと思っている。このような人は、改めて金と時間を費やしてロースクールに入る手間ひまはとれない。
 私がいいたいのは、このような人生転換組みで中年の受験生に、ロースクールに行かなくても、司法試験の受験資格を与えつづけて欲しいということである。ロースクールが「質の良い法曹」の養成を主眼とするなら、その脇道でその過程に匹敵する勉強をして「質の良い法曹」になり得る人生転換組の合格への道を奪わないで、与え続けて欲しいものである。

【以上、記事引用終わり】

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弁護士 濵門俊也
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