最高裁の英断!認知症の男性のご遺族家族の賠償責任を認めず
2016/03/01
こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。
本日(平成28年3月1日)午後,世間の耳目を集めるある事件の判決の報道がありました。
愛知県大府市において,認知症の男性(当時91歳)が1人で外出して列車にはねられ死亡した事故を巡り,JR東海が男性の同居の妻(93歳)や首都圏に居住していた長男(65歳)らご遺族家族に対し,約720万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決の話です。最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は,男性の同居の妻に賠償責任を認めた第2審判決を破棄し,JR東海側の請求を棄却する判決を下しました。これにより,男性のご遺族家族側の損害賠償責任が一切免れたこととなります。
超高齢化社会時代を迎えたわが国においては,500万人を超える認知症の人が生活しているそうです。上記事故自体は,平成19年(2007年)に遡りますが,上記判決は,認知症の人を介護する家族の監督責任を巡る初めての最高裁判決となりました。最高裁は極めて妥当かつ賢明な英断を下したと当職は率直に思いました。実際に介護に関わるご家族や従事者の方々のご苦労やご心労を思いを致しますと,その先例性は極めて高いものといいたいところです。
民法第714条は,未成年者のうち自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていない者(民法第712条)や精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にあった者(民法第713条本文)らが第三者に損害を与えた場合,代わりに監督義務者らが責任を負うとする一方,監督義務を怠らなければ例外的に免責されると規定しています。
【参照条文】
(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第714条
第1項 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
第2項 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
本件の争点は,①妻と長男は男性の監督義務者に当たるか,②当たるとしても,免責されないか,の2点でした。
第1審と第2審の判断は割れました。第1審の名古屋地裁は,長男を事実上の監督者と認定し,妻の監督義務者としての責任も認め,2人に対し,全額の支払いを命じました。これに対し,第2審の名古屋高裁は,長男の監督義務を否定したものの「同居する妻は原則として監督義務を負う」とし,妻に対し,約360万円の賠償責任を認めました。これを不服としてJR側と男性のご遺族家族側の双方が上告し,本年2月の口頭弁論を経て,本日の判決となりました。
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弁護士 濵門俊也
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日本橋にて離婚トラブルを担当
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