弁護士 濵門俊也
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東京地判平成10年6月26日(判時1668号49頁)

東京地判平成10年6月26日(判時1668号49頁)

2016/08/17

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 今日は暑いですね。残暑厳しいです。「このまま暑くなったら12月はどうなるやろか」などと古典的な漫才のフレーズでも言いたくなります(…まったくつまらないですね。その意味では「寒い」です。)。さて気を取り直していきましょう。先日,つぎのような内容の公正証書遺言についてご相談を受けました。

① 下記不動産を甲に遺贈する。
  ◯◯区◯◯町・・・の土地
  ◯◯区◯◯町・・・の建物

② 上記①の不動産を除く一切の財産を乙に遺贈する。

 ①の遺贈が特定遺贈であることは問題ないと思いますが,②の遺贈は包括遺贈なのか特定遺贈なのか少し悩みますよね。
そこで,今回はこれに類似した問題を扱った事例の裁判例(東京地判平成10年6月26日判時1668号49頁)がありますので,その解説とともに説明してみます。

●問題提起

 まず,遺贈には「包括遺贈」と「特別遺贈」があります。
 「包括遺贈」とは,目的物を特定せずに,遺産の全部又はその一定の割合を指定して行う遺贈のことであり,例えば「遺産の全部」とか,「遺産の2分の1」というように遺産の割合をもって行う遺贈のことです。
 他方,「特定遺贈」とは,「下記不動産」とか「下記預貯金」というように目的物を特定して行う遺贈のことをいいます。

 包括遺贈を受けた人(=包括受遺者)は,相続人と同一の権利義務を有する(民法第990条)。とされているため,その遺贈が「包括遺贈」なのか「特定遺贈」なのかによって,債務を承継するか否か,放棄する場合の方式,登記の方法(乙が唯一の相続人だった場合)などの取扱いが異なります。

 前記公正証書遺言②の記載は「◯◯を除く」という書き方で財産を特定しているようでもありますが,通常の特定遺贈のように明確に財産を特定している訳ではないので,「特定遺贈」というには少し違和感を感じます。
 また,遺産の全部若しくはその一定の割合をしている訳でもないので,「包括遺贈」と言い切ってしまっていいのか?という疑問も生じます。

●東京地判平成10年6月26日(判時1668号49頁)の説明

① 事案

  被相続人Aは,著名人物(昭和9年に獄死しています。)の妻であったところ,Aは,遺産のうち不動産の一部(A所有の土地のうち特定部分)をBに遺贈し,その余の財産すべてを(当時は)法人格なき社団であったX(大正11年に創立された政党です。)に遺贈したという事案です。Xが特定受遺者なのか包括受遺者なのかが争点となりました。

② 判旨

  東京地裁は,「『特定財産を除く相続財産(全部)』という形で範囲を示された財産の遺贈であっても,それが積極,消極財産を包括して承継させる趣旨のものであるときは,相続分に対応すべき割合が明示されていないとしても,包括遺贈に該当するものと解するのが相当である」
と判示したうえで,本件事案においては,AからXへの遺贈について,Bが取得する土地以外の相続財産全部を包括してXに遺贈する趣旨でなされたものとして,Xについて包括受遺者と認めました。

③ 本判決の意義

  包括遺贈は,通常は,①全財産(積極・消極財産)を包括して遺贈する「全部包括遺贈」か,②全財産(積極・消極財産)の割合的な一部を包括して遺贈する「割合的包括遺贈」かのいずれかであるのですが,そのほかに③本件事案のように特定財産を除いた財産につき積極財産・消極財産を包括して遺贈するという「特定遺贈と包括遺贈の併存型」があることを判示した点に本判決の重要な意義があるといえます。
  判例時報第1668号49頁の解説では,「相続財産の一部を特定遺贈又は分割方法の指定により特定人に取得させることとしたうえ,それらの財産を除く相続財産につき,積極財産のみならず消極財産を包括して遺贈の対象とすることも可能であり,このような遺言は『財産の一部』についての遺贈であるが,当該財産の範囲で,受遺者は被相続人の権利,義務を包括的に承継することになるから,『特定財産を除く相続財産全部』という形で範囲を示された財産の遺贈であっても,それが積極・消極財産を包括して承継させる趣旨のものであるときは,相続分に対応すべき割合が明示されていないとしても,包括遺贈に該当すると解するのが相当である。」と説明しています。

●登記原因

 最後に,登記手続上の説明を補足しておきましょう。登記手続上は,遺言書に「相続させる。」と書いてあれば「相続」として登記し,「遺贈する。」と書いてあれば「遺贈」として登記するのが原則です。ただし,「相続人全員に対して全財産を遺贈する。」と書かれていた場合は,遺言書に「遺贈する。」と記載してあったとしても「遺贈」ではなく「相続」で登記することとなっています。

 今回の相談における乙さんは被相続人の唯一の相続人だったため,これが「包括遺贈」であるとしますと,登記原因を「相続」で登記することとなります。そこで,これを法務局がどう判断するか管轄の法務局に相談してみたところ,「包括遺贈」として手続を行って構わないとの回答を得られました。

 

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