弁護士 濵門俊也
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従業員が過労死した場合の会社側の法的責任

従業員が過労死した場合の会社側の法的責任

2016/10/20

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 広告代理店最大手・D社の新入女性社員(当時24歳)が過労のため自死した問題に関連し,平成25年(2013年)に当時30歳で病死した同社本社(東京都港区)の男性社員についても,三田労働基準監督署が長時間労働が原因の過労死と認め,労災認定していたことが分かりました。
 D社は「社員が亡くなったことは事実。遺族の意向により,詳細は回答いたしかねます」とコメントしているそうです。
 先日14日(金)には,労働基準法に基づきD社本社等に立ち入り調査が行われたとの報道もありました。出退勤記録等を調査し,是正勧告や刑事告発も視野に実態解明を進める方針ということでした。
 「過労死」という言葉が生まれて久しいですが(不名誉なことに,過労死は「karōshi」として輸出されています。),最近では「ブラック企業」などという言葉もあり,なかなかなくなりません。
 今回は,従業員が過労死した場合の会社側の法的責任について見ていきます。

● 労働基準法の責任

① 労働時間規制

 労働基準法(以下「労基法」といいます。)によりますと,従業員を週40時間を超えて労働させるためには労働組合と労使協定でその旨を定め,労働局に届け出る必要があります(いわゆる「36協定」です。労基法32条,同36条)。もっとも,「36協定」を締結すれば無制限に時間外労働をさせることができるわけではなく,月45時間が限度となります。そして,決算期,納期の逼迫といった場合に時間延長できる特別条項を締結していた場合には例外的に限度時間を超過することができます。
 このような「36協定」の締結を行っていなかった場合,協定によって定めた限度時間を超過して労働させた場合は労基法32条乃至同36条違反となり,6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課されることがあります(労基法119条)。

② 刑事責任

 労働基準監督署は,臨検や帳簿等の書類の提出を求めたり,尋問を行うことによって労基法違反の有無を調査することができ(労基法101条),違反が発見された場合には是正勧告を行います。もっとも,この是正勧告は一種の行政処分であり強制力はありません。
 しかし,これに従わなかった場合や,形だけの改善を行い是正報告する等,悪質で改善の傾向がみられない場合には,検察庁へ送致(書類送検)となり,刑事手続が執られることとなります。
 どのような場合に送検となるかの明確な基準はありませんが,東京労働局の発表によりますと,以下のような事例で送検されております。
 ① 貨物運送業において,「36協定」未届けのうえ,時間外労働が月127時間を超えていたもの
 ②「36協定」では月45時間を上限とし,特別条項として年6回,上限80時間の延長としていたところ,年6回の回数制限を超えて時間外労働をさせていたいもの
が挙げられております。①「36協定」を締結していないか,②締結されていても形骸化しており守られていないといった場合に送検される可能性があるといえるでしょう。

● 民事上の責任

 上記のように労基法上は「36協定」を締結し,特別条項を定めておけば,現行制度上では時間外労働の上限はありません。しかし,従業員が過労死した場合,会社は民事上の責任を負う場合があります。
 厚生労働省はどのような場合に過労死となるかの基準として,いわゆる「過労死ライン」を公表しております。それによりますと,
 ① うつ病発症前1~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が45時間を超える場合は,その時間が長くなるほど業務との関連性が強まる
 ② 発症前1ヶ月の時間外労働が100時間,又は発症前2~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が80時間を超える場合は関連性が強いと評価する
となっております。つまり時間外労働月100時間で過労死と認定されることになります。
 そして,判例上,企業は,従業員の労務管理を適切に行う安全配慮義務を負っているとされており(最判平成12年3月24日民集第54巻3号1155頁参照),民法上の損害賠償責任を負うこととなります。ちなみに,安全配慮義務は,雇用契約に付随する義務と解されています。

● コメント

 D社は,「36協定」により月の時間外労働時間の上限を70時間と定めておりました。しかし,実際には上限を超えた長時間労働が常態化していたのではないかとみられています。また,従業員には,時間外労働時間を過少申告するように指導しており,「36協定」が守られていないだけではなく,違反の隠蔽を指導していたともいわれており,より悪質な労基法違反と判断される可能性が高いといえます。
 そして,一つ強調しておきたいのは,上記労務管理に関する安全配慮義務違反による損害賠償責任を認めた平成12年最高裁判決の事例は,同じくD社における過労死による損害賠償請求の事案であったという点です。
当然のことですが,D社側は,当時再発防止に努めるとしていました。そうであったにも関わらず,今回の事件が起きてしまいました。これは,改善どころか,むしろ,より巧妙な隠蔽を行っていた悪質な事案ではないかと判断され,送検される可能性は高いと思います。当職の個人的な意見としては,「一罰百戒」の姿勢で臨んでもおかしくないと考えています。
 さらに,民事でも安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う可能性が高いです。
 このように従業員が過労により自死してしまった場合,労働基準監督署からの行政処分だけでなく,刑事責任や民事責任も同時に生じる可能性があります(労基法は,単に労使間の関係を規律した法律ではなく,刑事罰も規定している結構恐ろしい法律です。)。
 事業主の皆さんにおかれましては,「36協定」を締結して労働局に届け出ているか,時間外労働の上限を定めているか,定めていたとして過労死ラインを超えていないか等を,今一度見直してみてはいかがでしょうか。

 

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