債権関係に関する民法の改正
2020/03/06
こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。
いよいよ約120年ぶりに改正された民法の施行が近づいてまいりました(施行期日は令和2年4月1日)。当職も10数年ぶりに択一受験六法(いろいろ吟味した結果,LECの『司法試験&予備試験 完全整理択一六法 民法』にしました。)を購入し,施行に備えております。
先日,「特別養子縁組」に関する民法等の改正について解説しましたが,今回は,大本丸である債権関係の見直しについて,概要を説明したいと思います。
●改正の目的
現在の民法は,明治29年(1896年)に制定されたのですが,債権関係の規定(契約等)については,約120年もの間ほとんど改正はありませんでした(ちなみに,平成17年(2005年)4月1日から現代語化・口語化された民法典が施行されています。)。
しかし,明治の時代から社会・経済は大きく変化しました。取引の複雑高度化,高齢化,情報化社会の進展等,挙げればきりがありません。
また,大審院・最高裁が下した多数の判例や解釈論が実務に定着しているにもかかわらず,基本的ルールが見えない状況にありました。
そこで,平成21年(2009年)10月から5年余りの審議を経て,法制審議会民法(債権関係)部会において要綱案を決定しました。
改正検討項目の観点としては,
① 「社会・経済の変化への対応」の観点
② 「国民一般に分かりやすい民法」とする観点
が挙げられます。
●ポイント① 「社会・経済の変化への対応」の観点からの改正検討項目
大きく5つの分野で改正が検討されました。
【消滅時効・第166条関係】
業種ごとに異なる短期の時効を廃止し,原則として「知った時から5年」というようにシンプルに統一しました。その趣旨は,時効期間の判断を容易化する点にあります。
【法定利率・第404条関係】
法定利率を現行の年5%から年3%に引き下げた上,市中の金利動向に合わせて変動する制度を導入しました。その趣旨は,法定利率についての不公平感の是正をする点にあります。
【保証・第465条の6~9関係】
事業用の融資について,経営者以外の保証人については,公証人による意思確認手続を新設しました。その趣旨は,安易に保証人となることによる被害の発生防止を図る点にあります。
【約款・第548条の2~4関係】
定型約款を契約内容とする旨の表示があれば,個別の条項に合意したものとみなしますが,信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害する条項は無効となると明記し,定型約款の一方的変更の要件を整備しました。その趣旨は,取引の安定化・円滑化を図る点にあります。
●ポイント② 「国民一般に分かりやすい民法」とする観点からの改正検討項目
確立した判例や解釈論などの基本的なルールを明文化しました。
【意思能力・第3条の2関係】
意思能力(判断能力)を有しないでした法律行為は無効であることを明記しました。
【将来債権の譲渡・第466条の6関係】
将来債権の譲渡(担保設定)が可能であることが明記されました。
【賃貸借契約・第621条,第622条の2関係】
賃貸借終了時の敷金返還や原状回復に関する基本的なルールを明記しました。
●関係団体からの要望
関係団体からは2つの要望が出されました。
【要望①】 改正内容の周知徹底
関係者の実情に応じた効果的な周知を図るよう要請がありました。
具体的には,
☑様々な媒体による国民への周知
☑担当者による説明会を全国で実施
☑関係省庁と連携した業界団体への周知
でした。
【要望②】 十分な準備期間の確保
施行日を「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」とされました。
●成立までの経緯
平成27年(2015年)2月10日 法制審議会民法(債権関係)部会 要綱案決定
2月24日 法制審議会総会 要綱決定(全会一致)⇒答申
3月31日 閣議決定・法案提出
平成29年(2017年)5月26日 成立
6月 2日 公布
●施行期日
令和2年4月1日施行
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